荒波一期(仮)

□風丸一郎太の回想
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「そういえばさ、風丸って円堂や美波といつからの付き合いなんだ?」

「え?」



放課後の部室で着替えていると、突然一之瀬にそう聞かれた。

周りを見ると、みんなが興味深げに俺を見ていた。豪炎寺や鬼道まで、こちらを伺っている。

円堂と美波は、まだ来ていない。だから一之瀬も今聞いてきたんだろうけど。



「そういえば、聞いたことなかったな……」

「ね、教えてよ」



期待の目を寄せられ、苦笑いをしながら俺は口を開いた。





***


俺と美波が出会ったのは、小学校の入学式の日。クラスが同じで、席も隣だった。

緊張と不安で何を話せばいいのかわからなかった俺に、美波から声をかけてくれた。



「あたし、円堂美波っていうんだ!きみは?」

「ぼくは……風丸一朗太」

「へー。よろしくね、いちくん!」

「えっ、うん。よろしく、円堂さん」



唯一の友達だった。

あの頃の俺は引っ込み思案で、情けないことに美波の後ろをついて回ってばかりいた。

対する美波は、俺と違って積極的で、明るい性格で、優しくて……。

いつだって俺の手を引いてくれる、俺のヒーローだったんだ。

そんな美波に憧れて、髪を伸ばしてみたりもした。

それから暫く経った、ある日の昼休み。長い髪のことで、クラスのやつが絡んできた。



「男なのに長いとかおかしいぞ!」

「か、関係ないだろ!」

「あといっつも円堂と一緒だし!円堂だって迷惑だろ!」

「っ……」



そう言われて、頭が真っ白になった。

もしかしたら、迷惑だったのかもしれない。そう思ったら、泣きたくなった。

その時、



「いちくんをいじめんなよ!」



見覚えのある茶色い髪が、間に飛び込んできた。



「いじめてなんかねーよ!」

「いちくん泣きそうじゃん!ていうかあたし、迷惑なんかしてないから!」

「で、でも」

「知らない!」



そう一蹴すると、俺の手を引いて人気のないところまでつれていってくれた。正直混乱していたから、助かった。



「大丈夫だった?」

「うん……。ねえ、円堂さん」

「ん?」

「髪、変じゃないかな……」

「そんなことないよ!あっ、そうだ」



パンと手を打った美波は、予備として持っていた髪ゴムで、俺の髪を結んでくれた。

まだ今ほど長いわけでもなかったし、ブラシもなかった。少し不恰好で短い、ポニーテール。



「これで、お揃い!」



嬉しかった。美波は優しくて、強くて、憧れで……。やっぱり俺のヒーローだと思った。

でも、それと同時に守りたいとも思った。自分を守ってくれた美波を守れるくらいになりたいと。

その日を境に俺は美波のことを名前で呼ぶようなって、高学年になる頃には、呼び捨てになっていた。

守――円堂とも知り合って、2人に付き合って、たまにサッカーをやるようになった。

髪は伸ばした。たまに整えたり、切り戻したりするくらいだ。

絡んできたやつとは、距離を置いた。今思えば、あいつは美波のことが好きだったのかもしれない。


美波といると、自分の知らない自分を知れる気がした。



「いちくんって足速いよね」

「え?」

「なんだか、風みたいでかっこいい!」



美波にそう言われて、もっと速く走れるようになりたいと思った。

今でこそ走るのは好きだけど、思い返せば、陸上を始めるきっかけの1つだ。

日に日に俺の中で美波の存在は大きくなっていって、


いつの間にか好きになっていた。




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