荒波一期(仮)
□鬼道有人との再会
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ある日、鬼道は部活の帰りに本屋に寄った。
両親が残した――自分がサッカーを始めるきっかけとなった雑誌の記事が組まれている本があると聞いたからだ。
生憎帝国学園の近くに本屋はないので、電車を使い少し足を伸ばす。
本は店に入ってすぐの所に置いてあり、案外早く見つかった。最後の1冊らしく、安堵の息を漏らしつつ手を伸ばすと、
「あ」
反対方向から自分ではない手が伸びてきた。顔を上げて手が伸びてきた方を見れば、
「円堂美波……?」
思いもよらない相手がいた。
「まさか鬼道があたしと同じ雑誌買いに来てたとはねー」
「……そうだな」
あの後、どっちが最後の一冊を買うかで口論したが、結局俺の方が押しきられ、俺が買うことになった。
雑誌を譲って貰ったという借りを作りたくはなかったので、コイツ――円堂美波が買うのに付き合ってやることにした。
何故地元で買わなかったのかを聞くと、既に売り切れていたらしい。
「あ、あった」
違う店を覗いてみれば、案外すぐに見つかった。
買い終わって店を出る。その時、
「あのさ、時間空いてる?」
円堂美波に話しかけられた。
「……何故だ?」
「いや、雑誌買うのに付き合わせちゃったからさ。なんかお礼したくて」
「付き合ったのは借りを作らないためだ。寧ろ俺は譲られたのだから、礼をいうのはこちらの方だ」
「そっか」
そう言って、そのまま別れるつもりで歩き出したが、コイツはその後をついてきた。
「……何だ」
「え、あー、いや」
「……」
「あ、ほら!星が綺麗だね」
「雲で見えないが」
「……あれ?」
「はあ……。……円堂美波」
「は、はい!」
「何か用があってついてきたんじゃないのか」
「それは……てかなんでフルネームで呼ぶの?」
「お前の兄と被るだろう」
兄。そう言ってふと春奈のことを思い出した。
家族として、共に過ごせるのが、少しばかり羨ましく思う。
「名前で呼んでもいいのに」
「……考えておこう」
「あのさ」
「何だ」
「聞きたいことがあるんだけど、時間もらっていい」
「かまわない」
大したことではないだろう。そう思ったのに、
「練習試合の時、なんで雷門側のベンチずっと見てたのかなって」
そう言われて背筋が凍った。
「気づいていたのか……」
正直驚いた。サッカーバカと形容するのに相応しいバカ(土門が言っていたことで俺がそう思ったわけではない)だというのに、
「何故気づいたんだ?」
「うーん……なんとなくって言うか、」
「真面目に答えろ」
「鬼道の方見たときベンチ見てたからさ、なんでだろって見てたら何回も見てて……」
「……」
気づかれないようにしていた筈なのに、コイツにはバレた。
佐久間たちでさえ気づかなかったというのに、気づいたというのか。
「考えを改めるべきか……」
「へ?」
天然鈍感バカの癖に(これも土門からの情報だ)それに気づいた。
本人は無意識のようだが、コイツには人を見る目があるのかもしれない。
「あ、あの雲うさぎみたい」
……多分。
「鬼道?」
「……ベンチに眼鏡を乗せた女子がいただろう」
「春ちゃんのこと?」
「ああ。……春奈は俺の妹だ」
「へー……妹ね、妹…………妹おおおおお!?」
「反応遅いな」
あーだのうーだの言いながら目まぐるしく表情が変わって、思わず口元が緩んだ。なんなんだコイツは。
「あれ。でも名字違う、よね……」
「……場所を変えるか」
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