ただヒトリの愛をください
□負けられないんだ
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「アリサさん今日も可愛いなぁ……」
愛しい彼女の背中を見て思わず溢れた言葉に照れ笑いしつつ、アリサさんの後を着ける自分は客観的に見なくても気持ち悪いと思う。
けれど、仕方ない。
僕はアリサさんのことがここに来たあの日から好きで好きで堪らなくて、気になって気になって彼女のことはなんでも知っていたくて堪らないのだから。
だけど、僕がこんなにもアリサさんのことが好きでもアリサさんが僕のことを好きになってくれないのはわかっている。
アリサさんには好きな人がいる。
ずっと見守っていたから知っているけど、ここに来た日からお互いずっと好きあっていることは僕にはバレバレだった。
「あっ、最原ちゃんじゃん!」
……王馬くん。
僕の恋敵が無邪気な笑顔と共に前方から現れた。
彼の姿を見る度に負けたくないと対抗心がメラメラと燃える。
「今日も喜多村ちゃんのこと見つめてたの?相変わらずストーカーしてるみたいだね!」
「……別に王馬くんには関係ないだろ」
ムッとしてそう言い返せば王馬くんはゆっくりと口角を上げ僕の胸ぐらを軽く掴んだ。
「わっかんないかな〜最原ちゃん!」
「何するんだよ…」
ニコニコしていた王馬くんが一瞬険しい顔で僕を睨んだ。
「だからさー、やめろっつてんの」
僕が驚いた次の瞬間にはいつもの笑みを貼り付けた王馬くんがいて、パッと僕の胸ぐらから手を離した。
「じゃ、それだけだから。じゃあね、最原ちゃんっ!」
嵐のように去っていく王馬くんの背に思わず嫌悪の目を向けていてハッとした。
そうだ!そんなことよりアリサさんだ!
確か今日は天海くんと出かけるはずだ。
図書室に行く約束をしているのを見たはずだと思い、僕は図書室に向かった。
あぁ……、真剣に本を読んでいるアリサさんも可愛いなぁ。
何を読んでるんだろう……気になるけれど、ここからじゃ文字までは見えない。
僕が偶然を装って図書室に入ろうとした辺りで、アリサさんの後ろに近づいて本を覗き込んだ天海くんがつらそうな顔をして、アリサさんに話しかけた。
僕が思うに天海くんもアリサさんに想いを寄せている。
じゃなきゃ、いくら天海くんでも手を繋いだり朝わざとアリサさんを待っていたり、頻繁にデートに誘ったりしないだろう。
そんな天海くんがあんな顔をする。
十中八九あの顔をするのはアリサさんが王馬くん絡みで言動した時だけだ。
今までアリサさんを見ていたら自然と近くにいる天海くんも視界に入ったから知っている。
「最原ちゃん!何してんの?」
「っ!?王馬くん!」
ぽんっと後ろから肩を叩かれ振り返ると王馬くんが楽しそうに笑っていた。
僕を押し退けて扉の隙間を覗き込んだ王馬くんは面白くなさそうに顔を顰めた。
「はっ。なんか天海ちゃん喜多村ちゃんに近づきすぎじゃない?」
「それはわかるけど……」
「ふーん。でも良い雰囲気にはなってないみたいだね……ってアレ」
王馬くんが何かを見て口角を上げた。
「ほんっと、喜多村ちゃんってオレのこと大好きだよね〜!」
「……煽ってる?それ、僕のこと煽ってるよね?」
僕が王馬くんに腹を立てると、王馬くんは先程までアリサさんが読んでいた本を指差した。
「オレのこと知りたくて読んでたんじゃないかな?」
「え……?」
「じゃあ、喜多村ちゃん達に見つかる前にオレは行くね」
「あっ、ちょっと!」
僕の呼び止めを無視して彼は上機嫌で去っていった。
あの後、アリサさんと天海くんが出て行った図書室の中に入ってアリサさんが読んでいた本を見つけて僕は天海くんの気持ちがよくわかった。
あの時この本を見て天海くんが苦い顔をした理由。
深層心理学の分厚い本。
その嘘に関する内容のページが他より僅かに浮いていた。
アリサさんが先程まで開いていたページがここなら、天海くんがつらそうな顔をした理由がわかる。
僕もきっと今、そんな顔をしていると思うから。
僕はそっと本を閉じて元の場所に戻した。
アリサさんがどんなに王馬くんのことを好きでも諦められない。
諦める気にはなれないんだ。
それぐらい僕はアリサさんが好きで、誰にも彼女を取られたくない。
「負けたくないなぁ」
ぽつり溢れた言葉に僕は苦笑した。