ただヒトリの愛をください

□好きな人
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好きな人ができた。




そう気づいたのは、誰かと両想いにならなければ外に出さないと白黒のクマに宣言されて閉じ込められた異常な閉鎖空間でだ。

どうして今このタイミングで初恋なんかしてるのかは私にもわからない。

私はただ、突然の理不尽に納得いかないものの、仕方ないと割り切ってみんなと仲良くしようと試みて……どうにもみんな各々個性が強すぎて一筋縄ではいかない人ばかりで頭を悩ませていただけだったのに。

いや、その頭を悩ませていたのがそもそもの間違いのはじまりだったのかもしれない。

こんなに悩まなければ彼のことを好きになることもなかったはずだから。


超高校級の総統『王馬小吉』くん。


デートチケットを渡して一緒に過ごせば過ごすほど、彼の本心がわからなくなっていくぐらい嘘を吐く困った人だ。


「ねぇ、喜多村ちゃん。もっともっとオレのことで頭いっぱいになってよ」


その言葉通り、まんまと私は彼の策にハマり王馬くんのことで頭がいっぱいになってしまったのだった。


「お、王馬くんって好きな人いるの……?」
「うん!いるよー!」
「えっ……」
「……てゆーか、オレはもうとっくに付き合ってると思ってたんだけど、違うの?」


なんて真剣な眼差しで顔を覗き込まれればノックダウンしてしまうのも無理はないと思う。

完全に心奪われた私が「好き」を口にしようとしたその時だった。


「なーんて嘘だよー!」


なんて楽しそうな顔の王馬くんがいて、私は口を閉ざした。

王馬くんは私には恋愛絡みの嘘をよく吐く。

そんな彼に翻弄され、振り回され、ドキドキさせられっぱなしの私は悔しくて俯く。

嫌われて、はいないと思う。じゃなきゃこんなふうに2人で過ごしてはくれないだろう。

でも、どうしたって王馬くんは私が求めている言葉は嘘でしか言ってくれないんだと思うと胸が苦しくて苦しくて仕方ない。

私は切なさで泣きそうになるのを堪えながら今日も笑う。


「まったくもう、王馬くんは嘘つきだよね」


嘘つきの彼には私の作り笑いはバレているんだろうか?

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