赤い月は朧気に
□真緒と凛月とクラスメイト
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「えっと…凄い急ですが、普通科からプロデュース科に転入してきました。一生懸命、みなさんをプロデュースするのでよろしくお願いします!」
朝のHR。
担任の先生に連れられて初めて自分の教室に来た私は教壇の前に立ってそう挨拶した。
アイドル科の校舎に入ってから感じていたが、教室に入ってからますます視線を感じ落ち着かない。
あまり、目立つタイプではない私は緊張しながらもなんとか自己紹介を終えた途端、歓声と拍手を浴びた。
「っ…?」
男子達の迫力に戸惑いつつも、歓迎されたことに酷く安堵した。
「おーい!桜!大丈夫か?」
「真緒くんっ!」
どうやら真緒くんと同じクラスになれたみたいだ。
私は知り合いがいることにまた安堵し、真緒くんに軽く手を振った。
真緒くんがいるってことは凛月くんとも同じクラスかぁ。
生憎、今この場に凛月くんはいないけれど。
教室を見回しながら、先生が指差した空席に座る。
隣の席も空席だから、もしかしたらこの席が凛月くんの席なのかもしれないなぁ、と考えながら私は先生の話を聞き始めた。
「ん、こんなもんかな…」
放課後。
真緒くんに学校案内をしてもらって私は学校の広さに驚いていた。
当然だが、普通科にはないような部屋があったり、部活があったり…全部覚えるのには少し時間が必要そうだ。
「でも、最初のうちは迷うと思うから、そん時は俺に連絡してくれればすぐ行くから」
そう言ってスマフォ片手に笑った真緒くんに私も笑って頷いた。
「ねぇ、凛月くんは何処にいるの?」
学校内を歩き回ったのに見当たらないことを不思議に思ってそう口にすれば、真緒くんは苦笑し、窓の外を指さした。
「あそこにいるの?」
「あぁ。なんかよく眠れるとかで雨の日以外は大体ガーデンテラスにいるかな」
「そうなんだ」
凛月くんに用がある時はガーデンテラに行くと頭にインプットしていると右の脇腹に突如衝撃を受けた。
よろけて転びそうになったところを横にいた真緒くんに支えられて私はなんとか体制を立て直して脇腹を見た。
「桜ー…」
「凛月くん」
そこには予想通り眠そうな凛月くんがいて、私に抱きついていた。
「珍しいな、まだ明るいのに凛月が校内にいるなんて」
「ふぁ、ふ…。桜いるかなーと思って来てみたんだけど、やっぱまだ眠い…」
今にも私に抱きついたまま寝てしまいそうな凛月くんを支えていると真緒くんが凛月くんを担いだ。
「こら、凛月。寝るな!」
「んん…桜、膝枕ー…」
「ダ メ だ!」
「えー…」
「ほら、行くぞ」
ちょっと凛月、置いてくるな?と凛月くんを支えながら廊下を歩いていく真緒くんに手を振った。
が、何を思ったのか真緒くんは凛月くんを支えたまま踵を返して戻ってきた。
「どうしたの?」
「いや…今日はもうこのまま帰るか?」
「別にいいけど…」
不思議に思いつつも私が頷くといつの間にか目をばっちり開いた凛月くんと目が合った。
「まーくんは目を離した隙に桜が他の男にちょっかい出されないか心配なんだよ」
もちろん、俺もね。
そう言うだけ言って凛月くんは目を閉じた。
「あ、こら!寝るなって言ってるだろ!……はぁ」
真緒くんは困った顔で頬を掻いた。
「あのさ、さっき凛月が言ったことだけど……あぁ、もう!…その…………帰るか」
「……うん」
踵を返して歩き出した際にチラッと見えた真緒くんの顔はビックリするぐらい赤かった。