短編(女体化)
□夏目とかみ合ってない2
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結局あの日、私は誤解を解けないまま夏目ちゃんと一線を超えてしまった。
なんとか誤解を解こうとするものの、結局どうしていいかわからないまま夏目ちゃんとの恋人関係が続いてしまっている。
「おはよウ。夢咲」
学院に行けば私の下駄箱の前で待っていた彼女が私の姿を捉えて嬉しそうに笑う。
ぎゅっと私の腕に抱きついてくる夏目ちゃんは凄く可愛いんだけど、基本的に彼女が私に触る時の手の動きが何処か怪しい。
あの日のことを思い出して顔を赤くする私の反応を完全に楽しんでいる。
スキンシップも増えて、前より夏目ちゃんは私にベッタリになった。
それこそ、仕事やレッスン中以外ずっと私の隣にいる感じだ。
私が他の子と仲良く話しているのを見れば凄い速さで割り込んでくるし、私が他のユニットのプロデュースで忙しくて、Switchのレッスンに付き合えない日は朝からずっと不機嫌だ。
「夢咲たちって付き合ってるの〜?」
「ちょ、明星さん!」
「なーに?ウッキー?」
「それは、デリケートな問題だからあんまり触れない方が良いんじゃ…」
「なんで?だって普段ずっとベタベタしてるし気づいてない人なんていないじゃん!」
「そ、それはそうだけど〜」
なんて遊木さんと明星さんに言われた日には私はもう弁解出来ないところまで来てしまっていることを思い知らされた…。
「あれ?夢咲ちゃん?」
夏目ちゃんが明星さんに絡まれてる隙に図書室の隅の方に逃げ込んだ私は声をかけられ、顔を上げた。
「青葉先輩…」
「え!?な、なんで泣いてるんですか〜?」
「す、すみません…」
青葉先輩がブレザーのポケットから出した、ハンカチで私の涙を優しく拭ってくれたけど、その優しさに私はまた少し泣いてしまった。
「…夏目ちゃんと何かあったんですか?あ、いや、別に嫌なら言わなくても大丈夫ですけどね?」
「嫌ではないです…!でも、なんて説明したら良いかわからなくて…」
「そうなんですね。う〜ん。困りましたね。私としても好きな子達には笑顔でいてほしいので…」
「えっ?」
好きな子達…?
「私の初恋が夏目ちゃんだったのは話しましたよね?その、夢咲ちゃんは今好きな子なので…」
「あ、青葉先輩…」
「えっと、誤解しないでくださいね!2人の間に割り込むつもりはないので!むしろ幸せになってほしいというか…」
困った顔で青葉先輩が笑った。
次の瞬間、鈍い音が聞こえて呻き声と共に青葉先輩が床にしゃがみ込んだ。
「う〜っ!いったい!!この容赦のない蹴りは夏目ちゃんですねっ!?」
「煩い。黙って」
「ガチトーン!?」
冷めた顔で青葉先輩を一瞥した夏目ちゃんは私を見て笑った。
「こんな所にいたんだネ、探したヨ。この不審者に何かされてなイ?」
不審者って…。
夏目ちゃんの青葉先輩に対する態度は相変わらずだ。
「そこの変態が夢咲のことを好きなのは気づいてたけド、まさかボクのいない間に夢咲に手を出そうとするなんテ…」
「手っ!?誤解です!夏目ちゃん!」
「黙れ愚図」
「う、うう〜…っ」
今にも泣き出してしまいそうな先輩は酷く気の毒だ。
見ていられなくて、私は夏目ちゃんの前に先輩を庇うように立った。
「やめて。夏目ちゃん」
「っ…夢咲。なんで先輩を庇うノ…?」
さっきまでの威勢の良さは何処へやら途端にしゅんとする夏目ちゃんに少し胸が痛む。
「もしかしテ…、夢咲は先輩を好きになったノ……?」
「違うよ。私が好きなのは夏目ちゃんだよ!」
あ、あれ……?
私今なんて言った…?思わずとんでもないことを勢いで口走ったような…。
そうなの?私、夏目ちゃんのこと…。
でも、確かに好きじゃなかったらキスされるのもそれ以上のことされるのも嫌だったろうし…夏目ちゃんにされたのは嫌じゃなかったし。
「私は夏目ちゃんが好きだから」
もう一度、しっかり口に出して確認してみるとしっくりきた。
私は夏目ちゃんが好きだ。
「おかしいなァ…なんか初めてちゃんと夢咲に好きって言って貰えた気がするヨ。今まで何度も言って貰ってたのにネ…」
夏目ちゃんが心底嬉しいと言うように微笑んだ。
夏目ちゃんの手が私の頬に触れる。
「ねぇキスしてもいイ?」
「……うん」
この日のキスで私は初めて目を閉じた。
重なる唇に素直に幸福を感じて私は笑った。
「ン。可愛い…」
うっとりと夏目ちゃんが呟いてから、バッと私の後ろを覗きこんだ。
「まだ居たノ?センパイ」
と、からかい混じりに呟いた。
その声音はご機嫌で、私の背後で声にならない声を上げた青葉先輩は最後に謝って図書室を出て行った。
「ありがとウ、夢咲。ボクも大好きだヨ」
私を見つめて、夏目ちゃんがテレて笑った。