短編(女体化)
□夏目とかみ合ってない
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「逆先さん、綺麗だったよ!」
初めてSwitchのライブを企画してプロデュースした。
ライブ終わり、幕が下がった舞台から帰ってきた逆先さんに駆け寄れば彼女は凄く嬉しそうに笑った。
「それに今の逆先さんも凄く綺麗」
「……子猫ちゃんに面と向かってそう言われると凄くテレるナァ…。ねぇ子猫ちゃんはボクのこと好き?」
唐突だったけど、そんなの好きに決まってる。
夢ノ咲学院のアイドルは最高だし、みんな大好きだ。
親バカ?いやプロデューサー馬鹿?みたいな感じで。
「大好きだよ!」
「嬉しイ……ボクもずっと前からキミが大好きだヨ」
そう言って抱きしめあった日を境に、逆先さんは私にこれからは名前で呼びおうと言って私は逆先さんから『夏目ちゃん』と夏目ちゃんは子猫ちゃんから『夢咲』と呼び合うようになった。
私は仲良くなれたみたいで嬉しかったし、夏目ちゃんは前より私の隣にいることが増えていった。
「夏目ちゃん」
私が呼ぶとすぐ来て優しく笑いかけてくれる夏目ちゃんは大好きな友達だ。
でも、最近なんだか夏目ちゃんの様子がおかしい。
夏目ちゃんは最近ユニット活動も占いの仕事も忙しそうで……なんとか元気を出して欲しい。
「何?」
「あのね、夏目ちゃん!次のお休み私の家に来ない?」
「……エ?」
「あっ、急だったよね!何か用事があればそっちを優先してい…」
「行くヨ」
私の言葉の途中で夏目ちゃんが勢いよく身を乗り出して私の手を握ってきた。
夏目ちゃんの肩ぐらいまでのびているサラサラで綺麗な赤の髪が揺れた。
至近距離で夏目ちゃんの瞳と見つめあう。
夏目ちゃんはやがてテレたように微笑んで、席替えでクジに細工してなった私の隣の席に座った。
その間も繋がれたままの手を私は不思議に思いつつ、嫌じゃないから何も言わず、そのまま手を繋いでいた。
夏目ちゃんの仕事がない日に私は約束した通りに家に夏目ちゃんを招待した。
「お邪魔しまス。……思えば夢咲の家に来たの初めてだヨ」
何故か緊張した様子で私の家に上がった夏目ちゃんはお土産に持ってきてくれたらしい袋を私に差し出した。
「わー!このお店のケーキ大好きだよ。ありがとう夏目ちゃん!」
「知ってるヨ。だから買ってきたんだもノ」
「嬉しい!大好き夏目ちゃん!」
ぎゅっと夏目ちゃんに抱きつけば「おっト」とよろけつつ私を受け止めて抱きしめ返してくれた。
「ボクも大好きだヨ」
そう言って見つめてきた夏目ちゃんに嬉しくて笑うと夏目ちゃんが「目……」と言って私は何かわからなくて首を傾げた。
すると、夏目ちゃんはハッとしたように顔を逸らした。
「ごめんネ。いつまでも玄関にいたんじゃキミのご家族にも迷惑ダ」
「え?あれ?言ってなかったっけ」
「ン?」
「旅行行っちゃって、今家に私しかいないんだ」
「…………そうなんダ」
夏目ちゃんが何故かソワソワしだした。
いつまでも玄関にいるのもと、私はそんな夏目ちゃんの手を引いて自室へと向かった。
「ここが夢咲の部屋なんだネ」
「うん。そうだよ。でも、恥ずかしいからあんまりジロジロ見ないでね」
キョロキョロ私の部屋を見る夏目ちゃんにそう言ってから私は部屋を出た。
さっき夏目ちゃんがお土産にくれたケーキと紅茶を二人分トレーにのせて持っていけば夏目ちゃんは同じ場所に立ったままで私は少し驚いた。
「座っててよかったのに」
「あ、うン。そうだネ」
ぎこちない笑みと共に座った夏目ちゃんの目の前のテーブルにケーキと紅茶を置いて、私も夏目ちゃんの横に座った。
「美味しそう。食べ終わったら夏目ちゃんがしたいことしよう!なんでも言ってね」
「……なんでもいいノ?」
「うん!私に出来ることなら」
夏目ちゃんには言ってないけれど、夏目ちゃんを元気づけるために誘ったのだから私はなんでも付き合うつもりだった。
普段はやらないジャンルのゲームでもなんでも。
夏目ちゃんが楽しんでくれそうな映画は事前に借りてきたし、前にお弁当に入れたおかずで夏目ちゃんが美味しいと言ってくれたものも全部作っておいたから完璧のはず!
ケーキを食べている最中そんなことを考えていた私の横で同じくケーキを食べる夏目ちゃんは無言だった。
何か考え込んでいるような感じに、ケーキ食べ終わったらする事考えてるのかなと思ったら凄く微笑ましく見えた。
「ご馳走様でした」
「喜んでくれたみたいでよかったヨ。また買ってきてあげるネ」
「ありがとう!」
「…………それでなんだけド、さっき夢咲はなんでも良いって言ったよネ?」
真剣な顔の夏目ちゃんを不思議に思いつつも頷いた。
「いろいろ考えたんだけド、家に二人きりでしかもここは好きな子の部屋でサ……」
「好きな子って……そりゃ私も夏目ちゃんのこと大好きだけど」
「うン、知ってル。それでボクがしたいことなんだけド」
「うん?」
待っていても黙り込んでしまった夏目ちゃん。
私を見つめる瞳は僅かに熱を持っているように見えた。
「キスしたイ」
『夏目とかみ合ってない』
「え?」
「夢咲とキスがしたイ」
聞き間違いかと思って聞き返したけどはっきり聞こえて私の頭はクエスチョンマークで埋め尽くされた。
?キス?きす?KISS??キスってなんだっけ?どういうのだっけ?
魚にいたような?でもそれじゃあキスしたいって意味わからないし!
「ん?」
わからなくて考えた私が最終的に首を傾げると夏目ちゃんは私の頬に手を添えた。
「何度かそういう雰囲気になったけド、夢咲は毎回目を閉じないネ……キスする時は閉じないタイプなノ?だとしたら今まで気づけなくてごめんネ」
片手で腰を引き寄せられ、やっと夏目ちゃんの言ったキスの意味を理解した私は今までのことをいろいろと思い出して恥ずかしさに顔が熱くなって夏目ちゃんから顔を逸らした。
「ま、待って。夏目ちゃん……」
「どうしたノ?」
「えっと、夏目ちゃん私のこと好きなの?」
「ン?好きに決まってるでしょウ。付き合ってるんだかラ」
「えぇ!?いつから?」
「?もしかしテ、忘れたフリしてキスするの恥ずかしいから誤魔化そうとしてル?」
「違うよ!」
「フーン?まぁテレてる夢咲が可愛いから許してアゲル。ボクと夢咲が付き合ったのはキミがボクらを初めてプロデュースしてくれたライブの後だよ。初めて好きって言い合った日、思い出してくれタ?」
「あ……っ」
思い当たる節がある……でも、私は友達としてというか……恋愛ではなく親愛の意味。
誤解を解こうと口を開こうとした瞬間、夏目ちゃんに唇を塞がれた。
驚く私には目を細めて笑った夏目ちゃんは私から唇を離すと私を床に押し倒した。
「キスだけじゃ足りないヨ。今までずっとお預けにされてたんだかラ……」
「あ、あの夏目ちゃん!話しがあるの!私が夏目ちゃんに好きって……っ!?」
夏目ちゃんの手が私の太ももを撫でた。
その手の感触が擽ったくて身を捩れば夏目ちゃんは幸せそうな顔で微笑んだ。
「話しなら後でいくらでも聞くヨ。今は夢咲にもっと触れさせテ?」
「っ!」
再び触れた唇と私の身体に触れる夏目ちゃんの手に翻弄されて誤解を解こうにも言葉を紡げない。
それに……今更言ったところで?私と夏目ちゃんの関係は?
私は夏目ちゃんと仲良くしていたい。でも、私が恋愛的な意味で好きじゃないと知ったら夏目ちゃんはきっと今まで通りには私と仲良くしてくれなくなる。
「大好きだよ。夢咲」