短編(女体化)
□レオと女帝の妹
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綺麗なブロンドの髪を靡かせた憎き女帝の双子の妹は可笑しなことにわたしの好きな人だ。
愛する人と憎んでいる人はそっくりで、けれど優しさが暖かさが思想が思惑が身体の丈夫さが、性格が違っていた。
見た目はそっくりだけど、こんなに違えば別の人。
悪い正義の味方と騎士を従えた女王は夢咲をかけて戦った。
自分のユニットのfineに自分の半身である妹を引き入れたい女帝と愛する人を手放したくない女王は、わたしは、戦って、何度も何度も戦ってそしてー
「レオ」
柔らかく美しい声音でわたしを呼ぶ夢咲は悲しげだ。
あぁ、わたしが、また、また負けたから……。
「なに?」
悲しそうな顔を見るのがつらくて床にメロディーを書きなぐりながら返事を返せば、背中から優しく抱きしめられた。
夢咲の暖かい体温が伝わってきて凄く落ち着く。
さっきまで震えていた全身がみるみる治まっていく。
痛いくらい握りしめていた夢咲から貰った大切なペンをそっと床に置いた。
落ち着いてきた頃にはだんだんと状況を理解してきて、床一面にぐちゃくちゃと書かれた旋律はめちゃくちゃで見れたものではなく、壊れた携帯や鞄が乱暴に落ちていて教科書やペンもそこらじゅうに散乱していた。
理解したらしたで今度はポロポロと涙が溢れてきた。それを服の袖でごしごし拭えばまだ自分がユニット衣装のままだということに気づいて呆然とした。
「夢咲。行かないで」
縋るようにわたしのお腹に回された両手をギュッと強く強く握る。
行かないで。
わたしは今日も負けたけど、だけど嫌だ。
あんなやつのとこに行かないで。
わたしから離れて行かないで。
念じるように力を込めれば後ろから泣きそうな夢咲が笑った。
「ふふっ……。ねぇ、レオはなんでそんな必死に私を引き止めるの?」
「そんなのっ」
「うん。わかってる。好きだからだよね。わかってるよ。けどね、」
なんだかいつもと様子が違う夢咲に不安になる。
後ろから抱きしめられて表情が見えないのも私の不安を煽った。
「レオは今つらいでしょ?苦しいでしょ?もう、負けたくないでしょ?大事なユニットを、仲間を、壊されたくなんかないでしょう……?」
確かにつらくて苦しくて負けたくない。
セナとリッツに壊れて欲しくないし、ゴタゴタを早く終わらせてナルにもユニットに参加して欲しい。
小さく頷けば夢咲は優しく言った。
「なら、私を手放さなきゃ。そうしなきゃあなたはいつまでも解放されない」
優しい声音はまさに悪魔の囁きだった。
夢咲を手放せば解放される?楽に、なれる……?
その考えが一瞬脳裏を過ぎって私は強く夢咲を床に組み敷いた。
「ふざけんなっ!!!!そんなの、そんなこと出来るわけない、じゃん……っ!」
きちんと着ている制服の胸ぐらを両手で掴みあげて嗚咽混じりに怒鳴った。
床に押し付けられて痛いだろうに、首がしまって苦しいだろうに、夢咲は悲しそうに笑ってわたしの頬に手を添えた。
「ごめんね。けどもう決めたんだ」
「な、んでっ……ねぇ、なんでなのっ!?」
掴んだ胸ぐらを揺すって「なんで」と何度も聞いても夢咲の意思は揺らがない。
そんなのわかってる。
わたしの好きな夢咲は一度決めたことは絶対に曲げない面倒なところがあることぐらい。
「今まで守ってくれてありがとう」
「嫌だ……嫌だよ、ありがとうなんて言わないで!わたし、全然守れてないっ!」
「ううん。こんなにボロボロになってまで守ってくれた。愛してくれたよ」
幸せそうにふんわり笑う夢咲に涙が止まらない。
嫌だ。わたしは夢咲と離れたくない。
「だから今度は私に守らせて」
「っ、いや……!」
「お願い。私にあなたを守らせてください」
胸ぐらを掴む私の手を夢咲が優しく握って解く。
夢咲はギュッと私を強く抱きしめて、しばらくしてわたしにキスを一つ落として去っていった。
「愛していたわ。レオ」
最後に一言、そう残して。
レオが家に閉じこもって出てこなくなった。
そう泉に聞いたのはあの日からそう時がたっていない時期だった。
「あんたのせいなんでしょ?だったらあんたがあの馬鹿引きずってでも連れてきてよ」
そう吐き捨てるようにいった泉の顔は苦しそうに歪んでいた。
そんな傷ついた泉に私が笑顔で吐いた言葉を私は今でも忘れられない。
「……そう。でも私はもうfineだから、Knightsとは……あなたたちとは関係ないよ」
何故あんなことを言ってしまったんだと思うけど、私はあの時の言動を一切後悔していない。
私が彼女達から離れて、レオも学校に来なくなった今、私の憎くて愛しい双子の姉は、私の大事なKnightsに手を出したりしないだろうから。
何の代償もなしに守れるわけがないのだ。
欲張って全部を守ろうなんて出来ない事は何度も戦って何度も負けて守れなかったものをレオも私も知っているのだから。
だけどー
「わははははっ☆久しぶり!夢ノ咲学院!わたしという天才がっ!裸の女王様が帰ってきたぞっ!!」
校舎の窓から、校門前で大声を張り上げ笑うその姿を見た瞬間、私は胸を締め付けられた。
「っ……!」
そんなはずないのに目が合った気がして逃げるように生徒会室に入って扉を閉める。
それだけの動作だったのに、背中を嫌な汗が伝っていて息が乱れていた。
幸い生徒会室には誰もいなくて、今日は久しぶりに生徒会のお仕事が休みだから誰も入ってくることはないと床にへたりこんだ。
「レオ……」
もう二度とこの学院に姿を現すことはないと、少なくとも私と姉さんがいるうちは絶対に来ないと思っていたレオがいきなり学院に来た。
心の準備が全然出来ていない。
憎まれて嫌われてしまっていてもおかしくないのに、そんなレオと会う覚悟ができてないのだ。
でも、さっき目が合った気がした瞬間見たレオの瞳は鋭く冷たい手負いの獣のようだった。
もし、レオが復讐をするために戻ってきたのだとしたら……。
そう考えたらいてもたってもいられず私は生徒会室から飛び出した。
「きゃっ……!」
だけど、勢いよく飛び出したせいか扉の前にいた誰かにぶつかってしまった。
……しまった。
椚先生か蓮巳さんだったら長々とお説教をされるとびくびくしながら閉じた瞳を恐る恐る開く。
「なんだなんだ?そんな慌ててどーしたの?」
「……っレオ」
「うっちゅ〜☆夢咲!久しぶりっ!」
「う、うん。久しぶり…」
流れで挨拶を交わした相手は間違えようがなくレオだった。
キョトンと私を見つめるレオに昔と変わった様子はない。
「ごめん!もしかしてなんか急いでた?」
「あ、いや。ううん。別にそんなことないよ」
「そっか!よかったっ!わたし夢咲に用があったから」
そう言ってレオは目を細めた。
その表情は初めて見るものでドキリと心臓が音を立てた。
レオが1歩私に近づいてきて私の足は自然と1歩後ろに下がる。
「……レオ?」
何も言わずに近づいてくるレオとそんなレオから逃げる私。
レオが後ろ手に扉を閉めた瞬間、私はハッとした。
いつの間にか生徒会室に閉じ込められてしまったのだ。
動揺して後ろに下げた足がもつれ後ろに尻餅をついた私の上にすかさずレオが覆いかぶさってきた。
これからされるであろう酷いことを考えてギュッと目を閉じた。
「会いたかった……」
「…え」
震える声でそう言ったレオに驚いて瞳を開けて、飛び込んできた表情に私は驚いた。
「あぁ、あぁ!!会いたかったよ!わたしの夢咲っ!」
高揚した熱に浮かされたように恍惚とした表情でうっとりと私を見下ろすレオはぐいっと私に顔を近づけて私にキスをした。
「んっ。んんっはぁ……っ」
「っ……れ、お……」
苦しくて涙目でレオを見つめるとレオは嬉しそうに私の目元にキスを落とした。
「ねぇ、夢咲。わたしさぁ?夢咲がわたしから離れて行っちゃったのが悲しくてつらくて私には大切な人ひとり守ることすら出来ないのかって落ち込んであの日から学院に行けなくなっちゃったんだけどさ」
レオの目は私を捉えて離さない。
レオは話している間ずっと私の髪や頬を撫でていた。
「あいつ、憎き女帝が負けて学院も前ほど厳しい状況じゃなくなったってあと、Knightsの新人がわたしを捜してるって聞いて戻ってきたんだぁ」
「そ、そうなんだ……」
なんだ、戻ってきたことに私は関係ないんだ……。
じゃあ、この状況はなんなの?と混乱していると私を撫でるレオの手がピタリと止まった。
「けど、一番はやっぱ夢咲」
「え」
「だーかーらっ!夢咲を取り返しに戻ってきたのっ!」
そう言ってレオは私をギュッと抱きしめた。
「今度こそ守るから、手放さないから……だから、帰ってきて?もう一度わたしだけのものになって?」
そう言ったレオに戸惑う。
だって、レオは1度も私を責めなかった。
それどころか、まだ私を愛してくれていて、帰ってきてだなんて……。
いいの?私がレオのとこにいたらまた傷つけるだけなんじゃないの……?
「……ねぇ、夢咲。迷う必要なんかないでしょ?」
「え?」
「だって、夢咲は一回わたしを傷つけた。今度夢咲に離れてかれたらわたし、どうなっちゃうかわかんないよ?ねぇ…わたしのこと好きなら嫌だなんて言わないよね……?」
私を抱きしめるレオの力が強くなった。
違う。レオはお願いをしてるんじゃない。
これは脅迫だ。私には最初から選択肢なんて与えられてないのだ。
「……うん。わかった。私、レオのものになる」
「あぁ……!夢咲!やっとまたあの幸せな日々が戻ってくるっ!わたしと夢咲だけの!今度こそ誰にも邪魔させないし壊させないからっ!」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられて苦しい。
宥めるように落ち着いてくれるようにとなんとかレオの背に手をまわす。
「夢咲大好きっ!愛してるよっ!」
そう言って愛しいあの日から壊れたままのレオは私に笑いかけた。