短編(女体化)

□凛月と不器用
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午後の授業が終わり、人が少なくなってきたのを見計らって教室に入ると忙しいからとっくにいないだろうと思っていた真緒に見つかった。


「げっ……なんで……」


口から本音が出た。

すぐにこちらに近づいてきた真緒に焦りつつ平静を装って笑ってみせる。


「あ、真緒〜。今日は生徒会とかユニット活動はないの?」
「いや、ほんとはないはずだったんだけど副会長に呼ばれてこれから生徒会室に行く予定。……それより」


真緒がぐいっと近づいてきた。

反射的に後ずさろうとする私の両肩をしっかり掴んで私の動きを封じた真緒は私の顔をじっと見つめた。

まるで表情の変化を少しも見逃さないと言うように。


「午後の授業サボってどこ行ってたの?昼休みからいなかったよね?」
「えっと……うっかり寝てて」
「……凛月のところで?」
「うっ……はい…」


黙っていられる気がしなくて仕方なく頷けば真緒は深い溜め息を吐いた。


「そんで?凛月にまた血をあげたでしょ」


ダメだよ、凛月を甘やかしたらと怒る真緒は凛月とそこそこ仲良くなってから知り合った凛月の幼馴染み。

今は同じクラスということもあって大分仲の良い友達だ。

けれど真緒は、凛月が私の血を飲むのを良しとしていなくて、会う度に私を叱る。


「なんでわかったの?」
「わかるよ。ぼーとしてるんだもん!夢咲が倒れたらみんな困るんだから自分の身はしっかり守らなきゃだよ?」


そう言って真緒は肩にかけていた鞄の中からポーチを取り出して、その中から消毒を取り出し、首元の吸血痕につけ、最後には絆創膏を貼ってくれた。


「はい。もう、痕がこんなにたくさんついてて絆創膏だらけになっちゃってるんだから、次は絶対断りなよね」


私も凛月にちゃんと言っておくからと言ってじゃあねと生徒会室に急ぐ多忙な真緒に手を振ってから、鈍い痛みがある吸血痕を絆創膏の上から押さえた。

やっぱり、血をあげるなんておかしいよね……。

どんどん増える絆創膏を見て凛月以外のみんなは顔を顰めて私を心配するし、事情を知っている真緒は私と凛月を叱る。

でも、何故か血をあげるのをやめる気になれないのだ。

このままじゃダメだ、やめなきゃと思うのに血を求めてくる凛月を拒否することが出来ない。

思えば私は出会ってからいつも凛月のことで悩んでいる気がする。

下校時刻間近に木陰の木の下で寝ている凛月を見て声をかけたのが私と凛月の出会いだ。

親切で声をかけたのに、もう少し寝かせて〜やら、ほっといてとなかなかに冷たい反応と表情で睨まれて、ムッとしつつなんか放っておけなくて担いででも校門の外に運んで行こうとしたんだっけ。

でも、細いとはいえ身長が私より高い凛月を運ぶのは至難の業で結局運べずに体勢を崩して地面に倒れて怒った凛月に血を吸われたのがはじまりだ。

それからというもの凛月は、私の血を求めてくるようになった。

最初のうちは抵抗していたものの、今は抵抗しても無駄だと思って抵抗しなくなったんだよね…。

なんで私は凛月に血をあげてしまうんだろう。


「夢咲〜♪」


ふと、名前を呼ばれ考えるのをやめて顔を上げればヒラヒラと手を振る凛月が教室に入ってきた。

さっき空き教室で会った時はぐったりしていたけれど、今はしゃんとしている。

陽が落ちてきたのと、血を飲んで少し寝たから元気が出てきたのかもしれないなぁ、とそんな凛月を笑って迎えれば凛月は嬉しそうに私に抱きついてきた。


「ふふっ。やっぱり、夢咲は抱き心地がいいねぇ」
「う……いきなり抱きついてくるのは危ないからやめてほしいんだけど」
「なんで怒るの?……あ、別に抱き心地がいいって太ってるからって言ってるんじゃないからね?」


そう言って凛月は私の太ももを撫でた。


「っ!?」
「夢咲の膝枕は骨張ってなくて絶妙な寝心地だし」
「り、つ……っ」


もしかしなくても、これってセクハラなんじゃないだろうか?

いや、でも、女の子同士だからセーフ?いやでも、嫌ならダメなんじゃ……なんて、考えているうちに凛月の手が太ももから上にいって、お腹、胸、肩を撫でて最後には首に辿りついた。


「この首だって今は絆創膏だらけでよく見えないけど、白くて美味しそうで凄く好きだよ」


綺麗な思わず同性の私まで見惚れる笑みを浮かべた凛月はそんな私の隙を見計らって絆創膏を剥がして放り投げた。


「ねぇ、血ちょーだい?」


可愛くそう言った凛月に思わず頷きそうになるのをグッと堪えた。

凛月に甘い私も流石に真緒に怒られた直後にしでかしたりしない。


「さっき吸ったばかりでしょ」
「む〜〜……」


私に抱きついている今すぐにでも首筋に噛み付いて来そうな凛月の口を手で押さえて阻止すれば、凛月は納得出来ないというような目で私を見て頬を膨らませた。


「とにかく今日はダメだよ。……というか、しばらくダメ」


そう言えば凛月は不思議そうに首をかしげた。

なんで?と聞きたげな凛月は凛月の口に当てていた私の手を掴んだ。


「ま〜ちゃんにダメって言われたから?」


そう言った凛月は何処か冷たい目をしていた。


「凛月……?」
「ま〜ちゃんとこんな近くで見つめあったりして言われたから言う事聞くの?」


そう言って凛月はさっき真緒がしたように私の両肩に手を置いて、私の顔をじっと見つめた。


「見てたの?」
「…………」
「ち、違うよ!真緒が言ってたからもそりゃあるけど、私もこんな関係おかしいと思うし……」


凛月が私に構ってくるのが私の血を飲みたいからだなんてわかってた。

はじめて声をかけた時、凛月は私に絶対零度の瞳を向けて冷たく追い払おうとした。けれど、私の血を飲んだ瞬間その冷たい瞳に熱が灯ったのだ。

凛月が血にしか興味はなくて、私の事はなんとも思ってなくて……私はそれが悲しいんだ。


「なんで私なの……」
「え?」
「他の子でもいいじゃん。私より可愛くて美人で血が美味しそうな子いるんじゃない?」


なんて、本当は自分以外の子の血を吸って欲しくないくせに心にもないことを言って肩から凛月の手を払った。

呆然と私を見ていた凛月が口を開きかけたけれど、構わず私は続けた。


「ねぇ、凛月。こんな関係終わりにしよう」


泣きそうになりながらそう言って凛月に背を向けた。

ずるいけどこのまま教室を出ることにする。

恐くて凛月の顔は見れなかった。


「待って」


凛月の静止を無視して私は足を止めない。


「待ってよ……待てって言ってんの!」


駆けてきた凛月にギュッと背中から抱きつかれた。


「離して」
「何で夢咲そんなこと言うの?確かに夢咲の血は美味しくて好きだけど、だけど、それだけで夢咲と一緒にいるわけないじゃん」
「え」
「ほんと意味わからないんだけど、私がま〜ちゃんに嫉妬して怒ってたのに…」


嫉妬……?


「だって夢咲、私よりま〜ちゃんと仲いいんだもん。ま〜ちゃんといると楽しそうなのに、私といるといつも苦しそうなんだもん!」


凛月が苦しそうにそう言った。

だってそんな……そんなの仕方ない。

実際苦しかった。凛月と一緒にいられるのは血を求められるのは嬉しいけど苦しかったんだから。


「夢咲は私のこと嫌いなの?だから私から逃げようとするの?」
「違うよ!違くて……」
「じゃあ、なんで?ま〜ちゃんのところに行く気なんでしょ?ま〜ちゃんに助けてもらうつもりなんだ。ま〜ちゃん夢咲に頼られたら絶対断れないし」


好き。

凛月のことが好きだから、この関係がつらいだなんて言えるわけがなかった。

言って凛月に嫌われるぐらいなら、このまま凛月から離れていきたかった。


「でもそんなの許さない。私から逃げるなんてさせない。ま〜ちゃんのとこには行かせない。ま〜ちゃんの所に行く夢咲を見るぐらいなら、夢咲の血を全部吸ってでも夢咲の全部私のモノにするよ。嫌われたくなかったから今まで我慢してたけどでも、もう関係ないよね?」


好きだよ、夢咲。


そう言って凛月はそのまま後ろから私の首筋に噛みついた。


「っ………いっ…………!」


あぁ、なんだ。

私も凛月も同じことで悩んでいたんだ。


「……好き。好き好きだ〜い好きだよ、夢咲。だから、逃げるのなんて諦めて私のモノになってね♪」


貧血に床にへたり込んだ私を抱きしめたまま凛月は一緒に床に座ってそう甘く囁いて再び首筋に噛みついた。

きっと凛月は本当に全部私の血を吸い尽くすつもりなんだろう。

けれど、凛月が私を好きならそれもいい気がした。

幸せな気分で目の前が白いモヤがかかったように見え始め、朦朧とした意識の中、私は口を動かした。


「私も、好き」


そう目を閉じた後、凛月が何か言った気がしたけれど私は意識を手放した。









次に目が覚めた時、私はベッドしかない黒い床、黒い壁の部屋にいた。

隣には私のお腹に抱きついた凛月がいて目を覚ました私を見て嬉しそうに微笑んだのを見て、私は生きているんだなって思った。


「おはよう。夢咲」
「あの、凛月。私、凛月に血を吸われた後どうなったの?」
「ん?私がこの部屋に運んだんだよ〜」
「ここ、何処なの?」
「ここは私と夢咲の部屋だよ。夢咲をここから出さないし、この部屋には私以外は絶対入れないから安心して」


そう言って頬を染めてとびきりの笑顔で私に擦り寄る凛月に私はもう凛月から離れられないのだなと思った。


「ふふっ。嬉しいの?そうだよねぇ、夢咲も私のこと好きなんだもんね」
「うん。好き」


今度こそちゃんと伝えれば、凛月は私の唇にキスを一つくれた。


「本当は夢咲の血、全部吸っちゃおうと思ったんだけど夢咲が好きって言ってくれたからやめたんだぁ」
「えぇ、私はあのまま殺されても幸せだったのに」
「ダーメ。ず〜〜っと、一緒にいようね。夢咲」


そう言った凛月に笑って頷けば凛月はもう一度私にキスを落とした。

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