短編(女体化)

□真緒はどうしたらいいかわからない
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颯爽と歩く凛とした横顔。

大きめでくりっとした瞳。

流れるように揺れる綺麗な黒髪。

その子が教室に入ってきた瞬間、空気が一変したんだ。

担任がいろいろ言ってた気がするけど、そんな話しなんて一切入って来なくて……その子と黒板に書かれた名前とを交互にみていた。


「プロデュース科に転入してきました。いろいろわからないことが多いので教えてくれると嬉しいです」


よろしくお願いします。と澄んだ綺麗な声で挨拶をして照れたようにはにかみ頭を下げたその子ー夢咲に私は釘付けだった。











「真緒っ!」


呼ばれた声にドキッと心臓が跳ねる。

振り返ると今ではすっかり引っ張りだこの敏腕プロデューサーになった夢咲が次のフェスの資料を両手一杯に抱えていた。


「よかった。ここにいた……これ、次のフェスの企画書!ホッケーに渡してくれないかな?」
「え?こんな大事な資料、私に渡しちゃっていいの?」
「うっ……いいの!真緒のこと信頼してるから!」
「っ……そっか。うん、わかった。渡しとく」


チラッと見えた資料には『ショコラフェス』と書かれている。

これって毎年やってる、バレンタインイベントの……。

バレンタイン、かぁ……。


「あのさ、夢咲……」
「ん?どうしたの?」
「夢咲って今、好きな人とかいる?」
「え……」


驚いた顔をしたあと、夢咲は微笑んだ。


「内緒!」


そう言って夢咲はホッケーによろしく言っといてね!と小走りで行ってしまった。

黒髪と膝上少し長めのスカートを揺らして去っていく後ろ姿を見送って私は頭を押さえた。


「何聞いてんだ〜私は……っ!」


あんなこと聞いちゃって、夢咲に好きな人がいたらどうすんのって話しだ。

大体、夢咲が男の子好きだったらアウトじゃん……。

ほんと意味わからない。

私はなんで、同性の夢咲にこんなにドキドキしてるんだろう。


「ま〜ちゃん」


頭を押さえて俯いていると、教室の中から聞き覚えどころかわからないわけがない声が私を呼んだ。

勢いよく顔を上げると壁際の日の当たらない机に突っ伏している見慣れた背中を見つけた。


「凛月!?いつから……」
「夢咲がま〜ちゃんに話しかけた辺りから」


最初からじゃない……と思っていると、ふぁあ、ふと欠伸をして、こちらに顔を向けた凛月は言った。


「夢咲のこと好きなの?」


私が今まで隠し通してきたことを。

封じ込めてきた想いを。悟らせぬまいとしてきた感情を。

さっきの出来事を見られたからなのかそれ以外の理由があったのか。

ずっと一緒だった幼馴染みに言い当てられた。



「そ、そりゃ好きだよ。夢咲は一生懸命にプロデューサーしてて、助けられることも多いし!凛月だって夢咲のこと好きでしょ?」
「……そうじゃなくて、恋愛的な意味で好きでしょ?」
「っ……そんなことない」


否定した声は驚くほど小さかった。

嘘をついたことで苦しいぐらい胸が張り裂けそうなぐらい痛んだ。


「隣にいたいってそう思うでしょ?他の奴が隣にいたらモヤモヤするでしょ?」
「そんなこと……っ」
「はぁ……。私にはバレバレだから」


凛月は椅子から立ち上がって私の方に歩いてきて、そして私の前で立ち止まって私の頭を撫でてきた。


「凛月……?」
「大丈夫だよ、ま〜ちゃん。私はま〜ちゃんの味方だから、夢咲とのこと応援してあげる」
「っ…………うん」


気づかないフリをしていた。

自覚したらツライだけだから、この恋は叶いっこないから。

だけど、誰もわかってくれないと思っていた感情を一人でもわかってくれて応援してくれている人がいる……それだけで酷く救われた気がした。


「ありがとう。りっちゃん」


私、頑張ってみるよ。

そう言うと凛月は満足気に笑った。











「夢咲〜!やっと見つけた!一緒にお昼食べよう?」


ショコラフェス当日。

物販が一段落して校内の見回りをしていたら、向かいから来た真緒にお昼に誘われた。

最近、真緒と凛月とお昼を食べることが日課になっていたけれど、こんな忙しい日に人混みからわざわざ探してくれなくてもよかったのにと思うと同時に嬉しく思う。

それに用事もあったし……。


「いいよ!今日は携帯食を持ってきたんだよね」
「またか、夢咲……」


呆れたように溜息を吐く真緒にムッとする。

だって、サッと食べれて仕事に早く戻れるからいいんだもん。携帯食。


「そんなんばっか食べてたら、ほんと倒れるよ〜?ってことで、コレを食べなさい」


そう言って真緒は私に大きめの二段重ねのお弁当を差し出した。


「これ、私に……?」


有難いけれどその大きさに戸惑っていると真緒は笑って言った。


「うん。一緒に食べよう!」











「ごちそうさまでした」


手を合わせて挨拶すると真緒がお粗末様でした。と満足気に言った。


「どれもとっても美味しかった。真緒って料理上手なんだね」
「そうかな?それじゃあ、料理本と睨めっこして作ったかいあったかな!」


そんな頑張って作ってくれたんだ……。


「ふふっ。じゃあ、お礼に今度は私が真緒にお弁当作ってくるね」
「えっ。いいの?」
「うん。腕によりをかけて作るから期待しててね」


そう言って笑うと真緒も笑った。


「……夢咲」
「ん?」
「はい、これっ!」


後ろから真緒が箱を取り出して私に差し出した。

可愛くリボンのラッピングされたそれはショコラフェスでお客さんに配るために真緒が使っていた箱とは違う。

それに、私は特別を感じて嬉しくなった。


「ありがとう。真緒」
「うん……」
「実は私も……はい、真緒に」


私も持ってきていた紙袋から真緒に作ってきたチョコを取り出して差し出した。


「あ、ありがとう」


真緒は嬉しそうにチョコを受け取ってくれた。

それからすぐドタバタして、ファンの人達に囲まれすぎている羽風先輩を救うべく真緒と別れたけれど一緒に帰る約束が出来たからよしとした。











「ま〜ちゃん。どうだった?夢咲にチョコ渡せた?」
「渡せたよ。それに夢咲もチョコくれたんだけど、みんなに配ってるみたいだし義理だよね……」


義理でも貰えるだけ嬉しいけど!

でもどうしてもガッカリしちゃう。


「は?ま〜ちゃん何言ってるの?」
「え?何?何か間違ったこと言った?」
「言ったよ。だって、ま〜ちゃんが夢咲に貰ったチョコ手作りじゃん」


いや、そうだけど。

でも、みんなコレ貰ってると思うとどうも……。

凛月がチョコを取り出して言った。


「コレが私が夢咲に貰った市販のチョコ。きっとま〜ちゃん以外はみんなコレだと思うよ」
「っ…………!」
「ねぇ、ま〜ちゃん。これってど〜ゆうことなんだろうね?」


ゆっくり理解して徐々に顔が熱くなってゆく。

え?これどうゆうこと?

夢咲が手作りチョコを渡した相手は私だけって……?


「え?え?夢咲、私のこと……?」
「ふふっ。それは本人に聞きなよ…♪」
「う、ん。ありがと、りっちゃん!」


居てもたってもいられなくなって、凛月にお礼を言って私は駆け出した。

今はきっとUNDEADのステージ付近にいるはず!

待ってて、夢咲。

すぐ行くから、そしたらー


「夢咲っ!!」
「……えっ。真緒?どうしたの?」
「好き」


気持ちを伝えた途端、瞳を真ん丸くして驚いた夢咲はやがて瞳を潤ませた。


「私も好きっ!」


そう言って微笑んだ夢咲を私は堪らず抱きしめた。

すぐに夢咲も抱きしめ返してくれて嬉しくて笑みが溢れた。

この時は周りの目なんか気にしてなくて、夢咲が羽風先輩が迷惑をかけたお詫びをしたいと朔間先輩に呼ばれるまで私たちはずっとそうしていた。

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