短編(女体化)

□女帝様とメイド
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「お嬢様」


お昼休み。

いつもと同じように、お弁当を両手で持って隣のクラスの主人の元へ行けば、彼女は綺麗な微笑みで私を迎え、隣の椅子を引いて私を座るよう促した。


「おいで」


優しく甘さのある声音でそう言われ、主人の言葉は決して断れないけれど、遠慮がちに私は椅子に腰掛けた。


「失礼致します」


素直に座る私から、持っていたお弁当を攫って、机に置くと彼女は楽しげにお弁当の重箱を包んでいた風呂敷を解いて、箱を開けた。

そんな主人の反応を私はいつもとは違い何処か落ち着かない気持ちで見つめる。

何故なら彼女の命で今日の昼食は天瑛院家が雇っている腕のあるシェフが作ったものでもなければ、有名店から予約取り寄せしたものでもなく、他でもないただのメイドの私が作ったものなのです。


「ふふっ。私の好きなものばかり入っているね」


中身を確認して嬉しそうにこちらを見てニッコリそう言ったお嬢様に「まさか、お嬢様の苦手なものを入れたりなんて致しません」とキッパリ言う。


「私は苦手なものを君に教えたことなんてないはずなのだけれど。本当に夢咲は私のことをよく見てくれているんだね」


ふわりと綺麗な笑み。

心から嬉しそうな主人に私も心が暖かくなった。


「お褒め頂き光栄です。ですが、主人の好みも苦手なものも全て把握するのはメイドとして当然でございますから」


冷静にそう答えるとお嬢様は困ったように眉をお下げになった。

私は何か間違ったことを言ってしまっただろうか?

不安になって口を開こうとした唇に何かが当たった。


「っ……?」


視線を下げるとそこには玉子焼き。

そこからお嬢様に視線を向けて私の唇にお嬢様が玉子焼きを押し当てているのだと理解した。


「ほら、あ〜ん♪」


至極楽しそうなお嬢様に私は首を振って抗議する。

そんな、私なんぞがお嬢様に食べさせてもらうなんて出来ませんとゆう意味を込めてだ。


「はぁ……仕方ないなぁ」


理解して下さったのか、お嬢様は私の唇から玉子焼きを離した。


「私に先に食べてもらいたいのでしょう?確かにそうだよね。これは夢咲が作ったものだし、私から感想が聞きたいものね」


違うのですが、そう納得したように言ったお嬢様は私に食べさせようと唇に押し当てていた玉子焼きをそのまま口の中に運んだ。


「お、お嬢様……っ」


そんな私の唇に触れた玉子焼きをお食べになるなんて……ただでさえ私が作ったものですのに、食べる価値が0に等しいそれを高貴なお嬢様がお食べになるだなんてそんなことあってはならないのに……!

真っ青になる私とは対象的に頬をほんのり赤くしたお嬢様はお箸をお持ちしていない手で私の手を優しく握った。


「とっても美味しいよ。今まで食べたどんな高級なものより美味しい」
「そ、そんなことありません……」
「いいや。やっぱり、作り手が君だからかな?夢咲より優しく聡明で美しい人を私は知らないもの」


1回も目を逸らさずそうベタ褒めして頂いて私は完全に恐縮してしまっていた。

貴女様に褒めて頂ける程の人間ではないのに……。

そういたたまれなくなって、全てを見透かしてしまいそうな綺麗な瞳から目を逸らそうとしたところで握られたままの手にギュッと力が込められた。

まるで、目を逸らすことは許さないと言うように。


「さぁ、今度こそ。あ〜ん…♪」


有無を言わさぬ笑顔で差し出されたタコさんウインナーに私は少し迷った後、意を決して口を開いた。


「あ、あーん……っ」


ちょっとして口の中に入れられたウインナーを咀嚼して緊張とお嬢様に食べさせて頂いた申し訳なさとで味もわからぬまま呑み込んだ。


「ふふっ。美味しい?」
「お、美味しいです」
「そう。よかった」


上機嫌で先程私に食べさせてくださったウインナーをお食べになったお嬢様は仰った。


「間接キスしちゃったね?」
「っ……なっ?!」


それっきりお嬢様は何も言わずに幸せそうにお弁当を完食された。

その間もずっと手は握ったままで、手が離されたのは私が自分の教室に戻る時だった。

お嬢様はいつも私の心臓に悪いことばかりされる。

まったく、お嬢様には困ったものです。

そう思いながら私は自分の教室に向かうのです。












「ねぇ、会長さん。会長さんとこのメイドさんすっごい可愛いね」
「……そうでしょう?私の夢咲はとっても可愛くて優秀なの」


夢咲が教室から出ていくのを名残惜しく見送った後、話しかけてきたのは羽風薫くん。

女好きで評判の彼を牽制するように笑顔で『私の夢咲』を強調して言うも彼はまったく気にしていない様子だった。


「へぇ。会長さんほどの人がそう言うなんてよっぽど良い子なんだろうなぁ。夢咲ちゃんって」


私の夢咲の名前を気安く呼んだ上に捕食者の鋭い眼光を見せた彼に我慢ならずに私は笑みが完全に消えたであろう顔で言った。


「純粋無垢で穢れを知らない聡明で綺麗なあの子に手を出して見ろ。君なんか世間的にも物理的にも完璧に消してあげるよ♪」
「ははっ。恐いなぁ、会長さん」


そんなことしないから、安心してよと笑う彼に私はむくれてそっぽを向いた。


「当然だよ。私だけの夢咲なんだから」


独占欲剥き出しな言葉を呟けば、「付き合ってもないのにね」と苦笑された。

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