短編
□永遠に愛する人よ
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ラブアパートネタです。
「は?」
モノクマに無理矢理連れてこられた先はいかにもなラブホで、一面ピンク調の部屋に怪しげな物がチラホラ見える部屋だった。
なんでも、可愛い!と昼間にカジノで交換したあの鍵のせいでここに連れてこられたらしい。
これから私は誰かの夢見る理想の相手として、部屋にいる相手をしなくちゃならない。
色々問題大有りな設定な気がするけど、出ていこうとドアを開けようとしたら鍵が閉まっていて出られない。
これはもう観念して付き合うしかない……と部屋にいた天海くんに恐る恐る近づいた。
「…………」
「夏菜。来てくれたんすね」
天海くんが私を見てホッとしたように笑った。
やはりイケメンが笑うと威力が違う。
やめて、そんな幸せそうにハニカムなんて……!
「天海く……って、なんで名前呼び?」
言ってから失言だったと気づく、天海くんが傷ついた顔をしたからだ。
「あ、すいません。もう俺なんかに名前で呼んで欲しくなんかなかったっすよね?夏菜がそうしたように俺も苗字で呼んだ方がいいっすかね?でも、君が来てくれたのが嬉しくってつい…」
イマイチ状況が読めなくて黙り込んでいると天海くんが耐えかねたように口を開いた。
「それで、本当に俺と別れるんすか?」
不安気にこちらを見つめる天海くんにギュッと胸が締め付けられた。
名前で呼びあっていて、今は私が喧嘩か何かで別れ話を天海くんにしている状況……私と天海くんは恋人同士で天海くんがなにかして私を怒らせたということかな?
「俺は別れたくないっすよ。初めてなんです。こんなに心から奪いたいって、離したくないって思えたのは」
真剣な表情の天海くんはそう言ってギュッと私を抱きしめた。
「謝るから、別れるだなんて言わないでほしいっす」
天海くんが私を抱きしめる腕に力を込めた。
まるで離さないと言われているような気がして私はとにかく天海くんを落ち着かせるようにおずおずと彼の背に腕をまわした。
「……ら、蘭太郎くん」
「っ!なんすか!?」
名前で呼んだのがそんなに嬉しかったのか食い気味に聞いてきた天海くんに私はたじろぎながら聞く。
「本当に反省してる…?」
何をしたのか知らないことには軽率に許すことも出来ないとそう聞けば天海くんは頷いた。
「もちろんっす。いくら心配だからって夏菜の携帯の通話履歴やメッセージのやりとり見たり部屋に防犯カメラ設置したり勝手にGPS付けたりしちゃダメっすよね」
「……え」
戦慄する私に気づかないのか天海くんは構わず続けた。
「妹が行方不明になったのがトラウマになってるっていうか、妹以上に大切な夏菜に何かあったら気が気じゃなくて……すいませんでした」
「……あ、蘭太郎くんは私のことが心配だったんだね」
やっとの思いで口にする。
いや、心配どころじゃない。
過保護?いやもはや、監視ストーカーと化してない?天海くん!?
天海くんの理想って何?怖いんだけど……。
「そうっすよ。心配で心配で心配で仕方ないっす…。夏菜は可愛いんすから」
「蘭太郎くん……」
「でも、夏菜に嫌われたら死にたくなるぐらい悲しいんでもう防犯カメラもGPSもネット監視も盗聴器も辞めるんで。だから、俺のこと許してくれないっすか?」
なんかさらっと罪状増えてる……?
なんか怖いし身の危険感じるから許したくないし逃げ出したいけど、これは天海くんの理想の夢。
ちゃんと付き合わないと相手は苦しい思いをするってモノクマも言っていた。
だから、仕方がない。
「うん。もうしないなら許すよ」
「本当っすか!?ありがとうございます!」
ギュッと更に強く抱きしめられ、そのまま二人でベッドに倒れ込んだ。
私の顔の横に両手をついて私の上に馬乗りになった天海くんとしばらく見つめあって、やがて彼は甘い顔で微笑む。
恥ずかしくて思わず目をそらす私に逃がさないと言わんばかりに彼は唇を奪った。
「ふふっ。嬉しいっす。夏菜が許してくれたのはもちろん、久しぶりにこうして夏菜に触れられることも……」
しゅるっと私の制服のリボンを天海くんが解く。
私はといえばキャパオーバーで固まってしまっていて、緊張とドキドキで全身が熱い。
ちょっと!モノクマ、こんなの聞いてないんだけどっ!!!!
どこかで見てそうな白黒のクマに内心で文句と助けを求めながら私は何とか服の中に入ってきそうな天海くんの手を掴んだ。
「どうしたんすか?」
色気と熱を含んだ瞳でのぞき込まれて今にも流されてしまいそうになる。
だけど、そう易々と自分をあげるわけにはいかないのだ。
例え夢でも、いや夢だからこそだ。
これが現実で実際に愛し合う恋人同士やお互い合意の上ならなんにも問題はない。けれど、これはそのどちらでもないのだ。
「ま、待って、蘭太郎くん……っ!」
「……そんなに真っ赤な顔で目に涙まで溜めて、夏菜はいつまで経っても恥ずかしがり屋さんっすね?」
優しく笑うと天海くんは私に止められたのは逆の手で私の頭を撫でた。
「いいっすよ。夏菜の心の準備ができるまで待つっす」
「蘭太郎くん……」
「そりゃあ、俺も男っすし、好きな子のことめちゃくちゃにしたいとか思うし、今も正直めちゃくちゃ抱きたいっすけど」
「う、うん」
「でも、夏菜が俺に抱かれたいって思ってくれなきゃ意味ないんで待ちます」
頷いて「ありがとう」と言えば天海くんは照れたように笑った。
「まぁ、これから時間はたっぷりあるっすから」
「そ、そうだね…?」
「そうっすよ。だって俺と夏菜はこれからここに一緒に住むんすから」
「……えっ」
私が驚くと天海くんは可笑しそうに笑った。
「だって、カメラもGPSもダメならもうずっと一緒にいるしかないじゃないっすか」
「あ、あの……蘭太郎くん……?」
「大丈夫っすよ。夏菜のことは何があっても俺が守るんで」
震える私の耳元に天海くんが囁いた。
「愛してます。俺の、俺だけの夏菜……」
『永遠に愛する人よ』
「っ!!」
バッと勢いよくベッドから飛び起きた私は全身に何も異常がないことを確認してホッと息をついた。
モノクマは忘れると言っていたのに何故か私にはラブアパートの記憶があって、羞恥や恐怖やらでいっぱいの私はいつものように起きてすぐ朝食に行く気になれない。
解けたリボンと普段の寝起きよりはだけた服を見て私はアレが実際にあったことなんじゃないかと推測して頭を振った。
慌ててはだけた服をきちんと着直してリボンを結び、顔を洗って気合いを入れてから自分の個室を後にする。
「うぅ……こんな恥ずかしいのも全部天海くんのせいだよ……」
天海くんの理想があんな感じだなんて思わなかった。
そりゃ、天海くんだって健全な男子高校生だし、理想もそういう感じでいいのかもしれないけど、偶然とか事故とかモノクマのせいで付き合わされた身にもなってほしいよ……なんて理不尽に天海くんに怒っていると後ろから肩を叩かれた。
「おはようございます。羽守さん。……あれ?なんかご機嫌斜めっすか?」
「あ、天海くん!?」
思わず後ずさりしてしまい、天海くんに不思議そうな目で見られてしまった。
「なんか様子がおかしいっすね。何かあったんすか?」
「べ、別に!何もないよ!ちょっと、変な夢見ちゃっただけ!」
「……そうっすか。でも、夢といえば俺は何か幸せな夢を見た気がするっす」
「えっ!?」
もしかして、覚えてる!?
「いや、よくは覚えてないんすけど将来を考えるぐらい本気で好きになった人と過ごす夢な気がするっす」
「っ……そ、そうなんだ?」
「まぁ、そんなに本気で入れ込める人見つかるとは思えないんで夢でしかないんすけど」
そう言って何でもないように笑った天海くんに何故か胸が痛んだ気がした。
「もし、見つかったら……?」
だからなのかそんなことを聞いてしまった。
天海くんは私の問いに少し驚いてやがて柔らかく笑ってー
「そりゃあ、周りにも相手にも引かれるぐらい大事にするし愛すんじゃないっすかね?」
「……そっか。そうなんだ」
天海くんに答えを聞いた途端、何故か嬉しくなって笑えば、天海くんは私の頭を撫でて口を開いた。
「んー。なんか恥ずかしいんで、俺が言ってたことは他のみんなには内緒にしてください。ね?」
しーっと人差し指を唇に寄せるポーズをした天海くんは私が頷くと私から離れて何事も無かったように笑った。
「さ、朝飯食べに行きましょうか」
「う、うん」
私はといえばドキドキしたまま、歩き出した天海くんの後ろを追いかけて朝食へと向かった。