短編

□私のこと、好きになって?
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楓ちゃんを幸せにしたい完全に作者の趣味。

紅鮭モード(ネタバレ&百合注意!)












綺麗で艶のある髪。

整った眉に、長い睫毛、何もかもを見透かすようなミステリアスで綺麗な大きめの瞳。

触れたら汚してしまいそうな錯覚さえ起こす透明感のある白い頬、ぷるぷるで触りたくなる薄いピンクの唇。

一緒に鍵盤に向かう度に触れ合いそうになる繊細で細い指先と細く柔らかな肩。

その全てに私は気を取られ、気が気じゃなくなりそうになる。冷静じゃいられない。大好きなピアノの音もよく聴こえなくなるほどに……だって、私は。


「楓ちゃん」


全てを包み込むような柔らかな優しい声が私の名前を呼んで、そこでようやく私の意識が戻ってくる。


「どうしたの?夏菜ちゃん」


なんて取り繕った笑みを浮かべたところでもう遅い。


「その、そんなに見られるとさすがに緊張しちゃうかなって…」


やっぱりあんなに熱のこもった目で見つめてしまえば、バレバレだ。

私はテレ笑いを浮かべて「ごめんね。夏菜ちゃんがあんまりにも綺麗だからつい、見惚れちゃって」と本音を口にすれば頬を赤くした彼女は軽く私の肩を叩いた。


「もー、あんまりからかわないでよ!」
「からかってなんかないよ!夏菜ちゃんは天使かってぐらい綺麗で素敵だよ!」


本当に綺麗で困るんだ。

男の子達はみんな夏菜ちゃんをほっとかないから……。

いつも誰よりも早く夏菜ちゃんの部屋に行ってデートに誘う私の必死さは王馬くんも引くレベルだし、誰にも夏菜ちゃんとのラブアパートは例え夢でも体験させたくないと、夜はカジノに入り浸ってコインを荒稼ぎし愛の鍵を買い占めようとしている私に同じく意外にもカジノ常連者な最原くんには苦笑されてしまうほどに。


「初めて会ったときからビビっとくるぐらい夏菜ちゃんは綺麗だよ」
「そ、そうかな……?」


恥ずかしそうにこちらを見る夏菜ちゃんに力強く頷けば彼女は堪えられないのかテレて笑う。


「ふふっ、ありがとう。でも私は、楓ちゃんの方が私よりずっと綺麗だと思うよ」
「……へっ?」


何言って……私の言葉は弱々しく口内で消えた。


「みんなを励ます明るい笑顔に前向きな言葉、それに絶対に諦めない強い意志……何より優しい綺麗な音色のピアノを奏でる楓ちゃんが私は大好きだよ!」
「っ〜〜〜!!!!」


うぅぅうぅぅぅ!!夏菜ちゃんほんと好き……!

耐えきれずに隣に座る夏菜ちゃんを抱きしめれば途端に彼女の香りに包まれ気がおかしくなりそうになる。

驚いた声を上げる夏菜ちゃんに構わず、ドキドキと煩く鳴る心臓の音がきこえてしまうんじゃないかってぐらい抱きしめる腕に力を込めて更に密着すればさすがにこのスキンシップに違和感を感じたのか夏菜ちゃんは身じろいだ。


「どうしたの?楓ちゃん」
「好き」
「うん。私も楓ちゃんのこと好きだよ?」
「違う!そういうんじゃなくてさ……私は恋愛的な意味で夏菜ちゃんが好きなんだよ」
「……えっ」


驚いた様子の声を聞きながら私はそっと夏菜ちゃんに抱きついていた身体を離した。


「夏菜ちゃんは私と同じ女の子で大切な友達でもあって、こんな感情抱くなんておかしいよね……でもね、好きになっちゃったものしょうがないと思うんだ。好きな人がたまたま同性だったってだけだもん」
「楓ちゃん……」


早口で理屈っぽいことを連ねる私は酷く滑稽だと思う。

でも、私はこの恋を諦めたくないんだ。

だって、夏菜ちゃんが他の誰かのものになるなんてそんなの耐えられない。

私以外の人と恋人になったり、私以外の子と仲良くしてるとこなんてみたくない。

私だけ、見てほしい。

そんな醜い欲の通りに行動して夏菜ちゃんの頬を両手で包んで私に視線を向けさせて、そして。


「もし、すこしでも私を大切だって思っているなら……」




『私のこと、好きになって?』




その言葉の後に私の唇は楓ちゃんの唇に奪われた。

軽く触れた唇が離れて顔から火が出そうなぐらい真っ赤であろう私の顔を見て、目の前の楓ちゃんは微笑んだ。


「はじめてキスしたんだけどさ、好きな人とのキスってこんなに幸せな気持ちになるんだね」


なんて嬉しそうな楓ちゃんを意識するなっていうほうが難しいんじゃないかって私は頭を抱えた。

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