短編

□不器用な優しさにサヨナラ
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本編ネタバレ注意!クリア後推奨。















「なんでなんだろうネ……」


ふと、真宮寺くんがつぶやいた。

みんながいたらかき消されてしまうであろうほど小さい声で紡がれた言葉はどこか泣きたくなるような切ないものだった。


「どうしたの?」


なんだか様子がおかしい真宮寺くんに近づけば、これ以上近づかないでと言わんばかりに手で制された。

みんなで手分けして新しく開放された階を散策している途中、たまたま真宮寺くんの研究教室らしき部屋を見つけ、私が真宮寺くんに声をかけ二人で研究教室に訪れたまではよかった。

真宮寺くんはあちこちにある物を見る度に目を光らせ、イキイキとなんであるのかを語っていて、さっきまであんなにも楽しそうだったのに。

思わず心配と不安に押しつぶされそうになる私に気づいたのか真宮寺くんはフッと笑って「なんでもないヨ」と言った。

この時、私は問い詰めればよかったのだ。

じゃなきゃあんなことにはならなかった。












三回目の学級裁判。

最原くんの推理やみんなで話し合った結果、茶柱さんとアンジーさんを殺したクロは真宮寺くん以外には有り得なくなってしまった。


「そんな……だって……なんで?真宮寺くん……っ!!」


茶柱さんもアンジーさんも大好きで大切な仲間だった。

でも、真宮寺くんも大切な仲間だ。

そんな彼が殺人を犯してしまったことが悲しくて悔しくて、涙が溢れた。


「なんでアンジーさんと茶柱さんを殺したの!?」
「君のせいだヨ」
「……え?」
「君といると僕は姉さんへの愛がわからなくなるんだヨ。僕は姉さんのことを何より大切で尊くて特別で愛していると思っているはずのに……」


真宮寺くんがつらそうに頭を抱える。


「それなのに僕は羽守さんを殺せなイ。君は優しく仲間思いで他人のことを思って涙を流せる素晴らしい女性で姉さんの友達にピッタリなのに僕には君が殺せない……アンジーさんも茶柱さんも殺せたのに君だけは殺せないんだヨ」
「真宮寺くん。それって……」


最原くんが言いづらそうに口を開いた。


「羽守さんのことが好きだから、彼女のことが殺せないんじゃないの?」
「フッ。最原くん……何を言っているのかナ?僕は姉さんを愛していると言ったはずだヨ」
「だったらなんで羽守さんを殺せなかったの?羽守さんと二人になる機会だっていくらでもあったはずだ。それって、羽守さんのこと、お姉さんよりも大切に思ったからじゃないのかな。だって、お姉さんが一番なら殺すことを躊躇うことなんてなかったはずだよ」
「…………」
「それにさっき真宮寺くんは言ってたよね。羽守さんに『君のせいだヨ』って。なら君にはもうわかってるはずだよ」


最原くんの指摘に、真宮寺くんは暫く沈黙した。


「……そうだネ。僕はわかっていたヨ。だけどそれなら姉さんのことは……?最後に羽守さんと二人きりで過ごした僕の研究教室での時間をとても穏やかで幸せな時間だと感じてしまったんダ……嗚呼、どうして……僕は姉さんを愛していたはずなのに彼女を好きになってしまったんダ……」


真宮寺くんの切なげな言葉にギュッと胸が締め付けられた。

もうすぐみんなは彼に投票するだろう。

仲間を殺した最低なクロで、でも今まで確かに仲間だったはずの真宮寺くんをみんなで処刑台に送る選択をしなくてはならないのだろう。

そんなことってある……?

こんな残酷なことをまだ続けなくちゃいけないの?

嫌だ……っ。

今にもそう泣き叫んでしまいそうだった。

私は、私は……っ!!


「私、真宮寺が許せない。真宮寺くんは茶柱さんたちを殺して夢野さんやみんなを傷つけた。許されないことをした」
「……そうだネ。君の言う通りだヨ」
「でも、私……、私も真宮寺くんのことが好きだった…好き、なんだよ……?」


それなのに、私は愛する人の凶行を止められず、そして愛する人をこの手で処刑台に送らなきゃいけなくて……そして、愛する人が殺されるのを見なくてはいけないのだ。

どんなに泣き叫ぼうが止めようと藻掻こうが、それがこれから訪れる変えようのない未来で、事件の真実が覆ることがない限り彼が生きることは不可能なのだ。


「ホント、君は優しいネ」
「……真宮寺くん」
「そんなだから僕みたいな悪い男に引っかかるんだヨ」
「もう……っ、こんな時に意地悪言わないでよ」


真宮寺くんはマスクを外して手で口を拭い口紅を取った。


「でも、僕のことを愛してくれたこと感謝するヨ」


今まで見たことがない素顔を晒して彼は私にそう言った。

本当に酷くて最低な人……。

そんな風に言われたらもうこれから貴方以外の人を好きになんかなれない。


「サヨナラ」


そう言い残し、処刑された彼は愛するお姉さんに殺された。

私はそれを見て、お姉さんに酷く嫉妬した。

だって彼は間違いなく、お姉さんに人生を狂わされたのだから。


「羽守さん……」


泣き崩れている私に最原くんがそっと真宮寺くんの帽子をかぶせてきた。


「前に真宮寺くんが僕に相談してきたんだ。身内以外の女性と親しくなるにはどうしたらいいんだろうネって」
「それって……」
「僕は真宮寺くんにプレゼントを渡してみたらどうって言ったんだけど、そうしたら真宮寺くん一瞬羽守さんを見て、この帽子をあげたいって言ってね」
「……ふふっ。なんで帽子チョイスなの…っ」


確かにまだこの学園に来て間もない頃、まだ学級裁判もしていない誰も死んでないそんな頃、ビクビク怖がって夜も眠れずに体調を崩した私に真宮寺くんが自己紹介以来、はじめて声をかけてきたことがある。


「全く酷い顔だネ。君は誰にも近寄らず関わらないけどそんなんじゃこの先何が起こるかわからないヨ?」
「なっ!?殺し合いが起るとでも言いたいの?」
「クク……。そんなの僕にはわからないヨ。強いて言うなら君のことが心配だと思っただけかナ。単純な好奇心ってやつだヨ」


そう言って真宮寺くんは私に自分の帽子をかぶせてきた。


「まぁ、その酷い顔は隠したほうがいいと思うけどネ」
「っ……大きなお世話ですっ!」


そうあの時は怒ったのと酷い顔を見られてしまった気恥しさで帽子を突き返し部屋に閉じこもったけど、思えばこの日から私は真宮寺くんが気になるようになって、真宮寺くんも私に話しかけに来るようになったように気がした。


「そっか……あれは私にくれようとしてたんだ……」


今更気づいたって遅いけど。


「それにしたって真宮寺くん分かりにくすぎるよ……」


そんなんじゃプレゼントだなんて気づかないよ。


「最原くん。私、この帽子貰ってもいいかな?」
「もちろん。真宮寺くんもそれを望んでるはずだよ」
「ありがとう」


今更だけど、ありがとう真宮寺くん。

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