短編

□君の声ひとつで
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育成計画世界線。天海通信簿ネタバレ注意!



















「そういえば最近、天海くん見ないけど元気かなぁ」


楓ちゃんの言葉に一部のメンバーが反応した。


「んー?そのうち帰ってくんだろ!」
「そうだネ」


百田くんが呑気に笑って真宮寺くんが相槌をうった。

けれど、みんなと仲が良く(それは天海くんも例外ではない)最原くんは心配そうに言った。


「天海くんのことだから気になるところを一通りまわったら帰国してくるとは思うけど、今回の旅はやけに長いよね」


それは私も気にしていたことで思わず俯く。

天海くんは妹を探して全世界を旅している。

天海くんにとって妹が大事なことを知っている私は何も言えないでいるけれど、でもあんまり帰ってこなさすぎるのは寂しいな〜と思ってしまうのは仕方ないと思う。

彼女の私を放ったらかしにしすぎなんじゃないかなと思ってしまうのは許してほしい。


「夏菜ちゃん?大丈夫?」
「……あ、うん」


暗い顔をしていたのが楓ちゃんにバレてしまい、慌てて笑って誤魔化した。

私の苦し紛れの笑えを見た楓ちゃんは何を思ったのか携帯を取り出すと誰かに電話をかけ、私に差し出した。


「えっ!?」


ディスプレイを見ればそこには『天海くん』と表示されていて、慌てて楓ちゃんを見れば得意げに笑って、私の手に携帯を押し付けた。

仕方なく携帯を耳にあて3回コール音を聞いたところでそれが途切れた。


『もしもし天海っす』
「っ……!」


あぁ、天海くんだ……。

いや、天海くんにかけてあるんだから天海くんが出るのは当たり前なんだけど久しぶりに聞いた天海くんの声に感極まるのは仕方ない。


『赤松さん?』
「あ、えっと、違います……」
『え……?その声、羽守さんっすか……?』
「は、はいっ!」


気付いてもらえたのが嬉しくて勢いよく返事をしたら少し声が裏返った。

周りで見ているみんなが何やらニヤニヤしていて、恥ずかしさに顔が熱くなった。


『ふふっ。なんでずっと敬語なんすか?』
「そ、そういえばそうだね」
『…………久しぶりに羽守さんと話せて嬉しいっす』
「私もっ!私も天海くんと話せて嬉しい!」


みんながニヤニヤしているのも騒ぎを聞きつけた王馬くんが私の身体をつついてくるのを構わずそう答えれば心なしか天海くんの声が弾んだ気がした。


『同じ気持ちで嬉しいっす。……その、ずっと連絡しなくてすいません。連絡とったら会いたいの我慢出来なくなっちゃうと思ったんで…』
「天海くんってずるい」
『え?』


そんな風に言われたら文句なんて言えないし、会えない日々の不安や不満が吹っ飛んでいく。

つくづく単純だと思うけど、それだけ好きってことなんだ。


「私、ずっと天海くんに会いたいよ」
『っ……』


私の言葉に天海くんがなんか息を飲んだ。

どうしたんだかそればかりが気になってちょこまかと動き回って「ヒューヒュー!お熱いねー!見せつけてくれるねー!」と言ってきた王馬くんが「うるさい」と魔姫ちゃんに一喝され、嘘泣きをはじめ斬美さんに「羽守さんが大事な電話中なのだから静かにしましょう?」と連れ出されたのも全然気にならない。


「天海くん?」
『今、飛行機のチケット手配しました』
「え?」
『もうすぐ空港着くんで』
「あ、天海くん?」
『明日の朝には日本に着くと思います』
「!それって……」
『はい。着いたら一番に会いに行くんでそれまで俺のこと待っててくださいっす』
「うん!」


思わず笑顔で頷けば、楓ちゃんたちが微笑んだ。




『君の声ひとつで』




「っ……天海くん!」
「ははっ。やっと会えたっすね」


朝、いつも通りに家を出たらずっと会いたかった人を見つけて駆け出した。

手を広げて待っていてくれた天海くんの腕の中に思いっきり飛び込んで抱きつけば強く抱きしめ返してくれた。


「はぁ……。ほんと会いたかったんすよ?」
「うん、私も」
「会えない間、不安でしたし何回も声聞きたくなったっす」
「……うん、私も」
「それに、王馬くんとかにちょっかいだされてないか気が気じゃなかったっす」
「え?王馬くん?」
「王馬くんじゃなくても最原くんや百田くんにも……羽守さんは可愛いっすから」
「そ、そんなことないよ」
「あるっすよ」


至極真剣な顔の天海くんに言葉が詰まる。

けど、それなら私だって。


「私だって天海くんが美人な外国人に陥落されてないか気が気じゃなかったよ!」
「陥落って……」


苦笑する天海くんにムッとして、背伸びして唇を奪った。


「こんな風に向こうじゃキスが挨拶だし、スキンシップも激しいんでしょ……?」


ちょっとで真っ赤になってしまう私と違って余裕の笑みを浮かべている長身金髪ブルーの瞳のナイスバディな美女なんかがうじゃうじゃいると思ったらほんと気が気じゃない。


「夏菜」
「っ……ん」


いきなり名前を呼ばれ驚いた拍子に今度は天海くんに唇を奪われた。

優しく触れて暫くの間くっついていた唇がゆっくりと離れていくのがスローモーションに見えた。

至近距離で目に入った天海くんの顔がほんのり赤く染まっていてー


「好きっす」
「私も好き、ら、蘭太郎くん……」
「………それはずるいっすよ」
「さっきの仕返しだよ」
「はぁ…………」


ぎゅうっと抱きしめる力が更に強くなって天海くんが私の肩に顔を埋めた。


「暫くこうさせてくださいっす」
「うん。わ、私もまだ抱きしめててほしい…かな」
「〜〜〜もう、可愛すぎるのも悩みものっすよ?」


それから私達は会えなかった時間を埋めるようにずっと抱きしめあっていた。

たまたま近くを通った王馬くんにからかわれるまで、ずっと。

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