短編
□キミの姿を夢見る
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1章、6章の多大なるネタバレがあるので本編クリアしてない方はバッグして下さい。
「っ……!」
突然のフラッシュに驚いてそちらに近づけば、本と本の間にカメラが設置されているのを見つける。
それを見て、どういうことなのか考えて立ち尽くしていると頭上から黒い塊が降ってきて自分の横に落下した。
「こ、これは……」
横で転がったのは砲丸だった。
たまたま当たらなかったが、もしも頭になんか当たっていたらひとたまりもないどころかさすがに死んでいただろう。
嫌な考えが頭をよぎる……まさか、狙われている?
タイムリミットが迫っている今、誰かが変な気を起こしても……いや、首謀者がみんなが知らない学園の構造を知っている俺を狙ってきてもおかしくない。
そこまで考えたところで背後から頭を硬い何かで殴られた感覚とともに、俺はその場に倒れ込んだ。
どくどくと今まで生きてきて流したことなんてないぐらい大量の血が頭部から流れていく……激しい痛みと朦朧としていく意識の中、俺の目の前に見えたのはある一人の少女だった。
『キミの姿を夢見る』
「天海くん」
優しい微笑みを浮かべる彼女を見て俺は酷く泣きそうになる。
「羽守さん……」
彼女は羽守夏菜さん。
前回のコロシアイの超高校級の???であり、コロシアイ学園生活を生き残ることが出来なかった俺が一番信じて愛した人だ。
死んでしまったあの日から酷く恋焦がれた彼女がいる。
忘れてしまっていたなんて信じられないほどに愛した彼女が目の前にいる。
手を伸ばせば届く距離にいる。
でも、酷い出血量のせいで力が入らなくて手を伸ばすことは叶わない。
悔しさに唇を噛み締めると、彼女の手がふわりと俺の手を包んだ。
「いいの、もう頑張らなくて。天海くんは充分私達の思いを背負って頑張ったんだから」
「っ……ぁ、……は…ッ……!」
声を出そうとしたら声は出ず、代わりに口内を鉄の味が広がって堪らなく泣きたくなった。
俺はキミに想いを伝えることすら出来ないんすか……?
「私は死にたくなかったし、みんなで生きて外に出たかった。なんでもない当たり前な日常を、愛しい平和な日々をみんなと、天海くんと過ごしたかった……ううん。たった一つ願いが叶うなら、君に、天海くんに生きてほしかった……っ!」
ポロポロ涙をこぼしてそう言う彼女はまるで天使みたいに綺麗で眩しかった。
あぁ、そうか……俺はこれから死ぬのか、と誰よりも生きたかったという思いの強さと悔しさがじわじわと胸に広がった。
「………………」
「っ……天海くん!死なないでっ!お願いだから……君までっ、死なないでよ……」
彼女の悲痛な声を最後に俺の意識は闇へと落ちていく。
確かに悔しいし、思うとこはたくさんあります。けど、俺はこれからキミと一緒にいられるの嬉しいっすよ。
そんな優しい言葉を死んでもまた会えるかわからない彼女にかけてやれないことが例え幻でも、俺の妄想だったとしても一番の心残りかもしれないとそう思った。