朔間凛月とプロデューサー

□彼女はプロデューサー
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向かった先は屋上だった。

彼女と初めてあったのが屋上で、行けば会えるような気がしたから。












初めて会った日に彼女は俺を「凛月くん」と呼んだ。

俺は彼女のことは噂で聞いて知っていた。

けれど、強豪ユニットのKnightsに所属しているとはいえ、数いるアイドルの中の一人であって、しかも初めて会ったも関わらず名前を呼ばれ、俺は驚いた。


「あんた噂のプロデューサーでしょ?なんで俺のこと知ってるの?」
「んー、私まだまだ全然仕事出来ないし、せめてアイドルのみんなの顔と名前は覚えようと思って椚先生に特別に名簿借りちゃった」


そう言って名簿片手に笑う彼女に真面目だなぁと思った。

何百人といるアイドル学科の生徒を全員覚える気なのかと。


「で、あんたは屋上で何してるの?」
「え?……あー、ちょっと休憩?」
「なんで疑問形なの?」
「……えーと」


困ったように視線を彷徨わせる彼女をよく見ると、顔色はあまり良くなく、目の下にはうっすらと隈ができていた。

そっか。弱みを見せたくないからこんなとこに一人でいたんだ。


「まぁ、休める時に休んだらいいんじゃない?」


そう言って一人になりたいであろうからと踵を返して、屋上から去ろうとすれば彼女に腕を掴まれた。


「待って!」


咄嗟にだったのか、振り返れば少し頬を赤らめ視線を下に向けて彼女は言った。


「ありがとう」


お礼を言うためにわざわざ引き止めたのかと少し笑みがこぼれた。


「ふふっ。どーいたしまして?」


その瞬間、彼女はぼーとした顔で俺を見つめた後、嬉しそうに微笑んだ。

俺はそんなプロデューサーとの出会いを特別だって思った。

なのにー

見かける度に成長していく彼女と周りに好かれていく彼女を見かける度に胸が痛む。

プロデューサーである彼女にとって俺は特別じゃないと言われているような気がした。

彼女が好きなのはアイドルの朔間凛月であり、その愛は夢ノ咲学院のアイドル全員に向けられているものだった。

彼女の表情も仕草も声も身体も全てアイドルの為のものなのだと、そう感じざるおえなかった。

それでも、それに気づいているやつも気づいてないやつもみんな彼女を愛さずにはいられなかった。

俺もその一人に過ぎなくて、でも、それを認めたくなくて、俺は彼女を否定したのだ。

俺が好きなのは、俺が知ってるのはあの日屋上で俺に弱みを見せた女の子だ。本当に嬉しそうに照れて笑っていたあの子だ。

だったら、あんたは何?

認めたくない。

そんなやつにま〜くんは渡さない。

いつしか苛立ちや嫌悪感が目立つようになってどうしようもなかった。

でも、俺は花香が好きだから、そんな俺たちアイドルの完璧なプロデューサーのあんたのことも好きになろうって覚悟決めたから。


「花香」


屋上から校庭を見下ろす花香に声をかけた。

校庭には部活中に陸上部がいる。

それを見守るように優しい瞳で見つめていた彼女は連日の疲れから何処か顔色が悪く目の下にはうっすら隈も出来ていた。

俺に呼ばれて振り返った不安気な様子にデジャブを感じた。


「凛月くん」


あの日と違った点はただ一つ。

彼女が今にも泣き出してしまいそうなところだけ。


「俺、花香が好きだよ。出会った日のまだプロデューサーになれてない普通の女の子の花香も。敏腕プロデューサーになった今の花香のことも癪だけど好きだよ。……ずっと好きだよ」
「どうして……」


彼女の瞳から涙が零れ落ちる。

それを指で優しく拭ってから彼女を抱きしめた。

抵抗されると思ったのに彼女はされるがままだ。


「ダメなのに……それなのに、私、凛月くんが好きなの……」
「ダメじゃないよ」


そう返して、花香の背を優しくあやすみたいに叩いた。









「凛月くん……」


もうダメだ。限界だってわかってた。

私はどうしようもなく凛月くんが好きなんだ。

凛月くんに告白されてから、ずっと凛月くんのことばかり考えてしまう。

凛月くんを避けていたのも会えば思わず気持ちを言ってしまいそうだと思ったから。

何かあると来てしまう屋上も、凛月くんと出会った場所だった。

初めて会った時意地悪そうだと思った。

なのに、本当は優しくて私に屋上を譲ってくれてお礼を言えば本当に嬉しそうに微笑んでくれた。

こんな素敵な人がいるんだって、こんな素敵な人がアイドルなんだって……私は感動した。

この人達のために頑張ろうって思った。

私がプロデューサーを頑張ろうと思った最初のきっかけは凛月くんだった。

凛月くんは私の中で特別な存在だったのだ。

頑張って頑張ってプロデューサーとしての経験と信頼を得て、初めてKnightsのプロデュースを泉先輩にお願いされた日には舞い上がりそうなぐらい嬉しかったぐらいだ。

あの日頼りない女の子だった私が成長した姿を凛月くんに見て欲しかった。

でも、凛月くんはその日の練習に1度も姿を表さなかった。

それでも私はどうしても諦められなくて、以前は敵対していた真緒くん以外の生徒会メンバーともプロデュースを通じて仲良くなり、英智先輩に紅茶部のお茶会に招待して頂いた。

凛月くんは部活には良く顔を出すと話しに聞いていたから会って話が出来ると思っていた。

でも、やっと会えた凛月くんは不機嫌で私は酷く困惑したのを覚えている。

名前で呼んだら気安く呼ばないでと言われて、私はまだ認めて貰えてないんだ。少し周りから認めてもらえたぐらいで良い気になるなと彼に言われたような気がした。

それから私は凛月くんに認めてもらおうと凛月くんを知ろうとして真緒くんに聞いたり、凛月くんにご飯を差し入れたりしたけど、全然うまくいかなかった。

行動を全部思い返してみても、私は凛月くんのことばかり考えている。


「好きになることは悪いことじゃないんだよ」


優しく抱きしめられてまた涙が出そうになった。

私はプロデューサーなのに、プロデューサーでなければ私の居場所はないのに……。

私はもうどうしようもないぐらい彼が好きだった。


「凛月くんが好き。ずっと前から大好き」


そう言ったら、凛月くんに唇を奪われた。

優しく触れるだけのキスからどんどん深いものになっていく。

息があがりそうになった辺りで唇が離れ、なんだか寂しくてなって凛月くんに強く抱きつけば彼は小さく笑った。


「ふふ。花香可愛い」
「や、やめて。恥ずかしいから……」
「なんで?俺たち両思いになったんだし、もう遠慮する必要ないんだよ♪」


吐息混じりな甘い声で耳元でそう言った凛月くんは猫みたいに私の首元に擦り寄った。


「好きだよ。花香」


惜しみなく告げられる愛の言葉に私はやっぱり恥ずかしくて、凛月くんに抱きついたまま顔を上げられなかった。


「俺の愛しいプロデューサー♪」


ご機嫌な凛月くんは恥ずかしがる私を見て更に気を良くしてそう言って、また、私にキスをする。

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