朔間凛月とプロデューサー

□彼女は無意識に愛を振り撒いて傷つける
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『アンタの本性暴いてやる』


先日そうくまくんに言われた瞬間、一瞬私は酷く動揺した。

どういう意味なのかわからないはずなのに、ビックリしたというかなんというか……。

それから気になってその言葉に意味を考えているけれど全く意味がわからなかった。


「おっ、花香どうした?元気がないな!あ、言わないで!妄想するから!」


そう言って作曲のことをいろいろと教えてくれているレオ先輩は目の前でう〜んと唸りながら考え始めてしまった。

司くんに探すのを手伝って下さいと頼まれてレオ先輩を見つけてからレオ先輩は作曲を教えてやるからと私をいろんなところに呼び出している。

今日もプロデュースが終わって帰ろうとした時、後ろから飛びつかれて振り返れば満面の笑みを浮かべたレオ先輩が「なぁなぁうちに来ないか?作曲を教えてやるぞっ?」と言ってきたので特にこれから用事もなく間近にフェスも迫ってきてなかったので二つ返事でOKして先輩に着いて行った。

家に上がればレオ先輩が溺愛している妹のるかちゃんに迎えられレオ先輩に手を引かれ向かった先輩の部屋に2人きり。


「わかった!花香はリッツのこと考えてたんだろっ!?」


バッとテーブルの向かい側に座っているレオ先輩が身を乗り出して先輩の顔を近づいて、キラキラした瞳が真っ直ぐに私を見つめている。

確かにくまくんのことを考えていたのは正解だった。

先輩の部屋に向かう前にるかちゃんに小声で「あの、お兄ちゃんの彼女なんですか?」と聞かれて否定すれば不思議そうな顔をされてしまったのが気になってしまって考えていた時に、気になることと関連して浮かんだのが先日くまくんに言われた妙に気になる言葉だった。


「正解です!なんでわかったんですか?」
「やっぱり正解か!いやだってさ、最近リッツおまえにベッタリじゃん?だから付き合ってんのかな〜って思って」
「え……」


そう言ったレオ先輩の先程までキラキラしていた瞳は影を落としていた。

レオ先輩は真剣な顔で私を見つめている。


「いやいや、くまくんと私は付き合ってませんよ!」
「え〜。だって呼び方も変わってるし……カップルになると呼び方とか変わるみたいじゃん?よくわかんないけど!」


疑いの目でじっと見つめてくるレオ先輩に耐えきれなくなった私はわかってもらいたい一心でテーブルに身を乗り出してただでさえ近いレオ先輩に顔を近づけた。


「違います!くまくんが嫌がったから呼び方変えただけです!そういう勘違い私はされたくないです」


レオ先輩が口を開く間を与えずに真剣に私がそう言えばレオ先輩の両手が伸びてきて私を引き寄せそのままギュッと私を抱きしめた。

テーブルを挟んでいるから少し体勢がつらい。


「そっか……。うん、そうだよな!それに、おれの家に来てくれたってことは少しはおれに脈あるって思っていいんだよなっ?」


そう言ったレオ先輩の声は心なしか嬉しそうに弾んでいた気がしたけれど、私は何が嬉しいのかよくわからなかった。









「ちょっと花香。王様から聞いたんだけど、アンタ昨日王さまの家に行ったでしょ」


お昼休み。

忙しそうな真緒くんの代わりにくまくんにお昼ご飯を届けに行けば不機嫌にくまくんがそう言った。


「行ったけどそれがどうしたの?」


それよりもお昼ご飯にと買ってきたトマトジュースとカツサンドを袋から出して渡せばくまくんはわかり易く顔を歪めた。


「どうかしたじゃないでしょ。その前の日は兄者とうちに来てたしこの前はま〜くんの家に行ってたじゃん」
「うん?」


いらないと袋ごと返されたカツサンドとトマトジュースをもう一度渡そうとした瞬間くまくんは怒ったように言った。


「わからないの?毎日のように好きでもない男の家に行くなんておかしいって言ってるの」
「どうして?真緒くんの家には漫画を借りに行っただけだし、零先輩の家に行ったのは昼間にお仕事してぐったりした先輩を送っただけだし、レオ先輩には作曲を教わりに行っただけだよ」
「……いい加減にして」


怒ったくまくんが袋を振り払いその衝撃で私の手に軽く握られていたそれは地面に落下してしまった。


「あっ……食べ物は粗末にしちゃダメだよ!」
「…………食べ物を粗末にするなって俺に注意してる暇あったらアンタは自分を好きな奴らの気持ち考えたら?」


そう言い残してくまくんは私に背を向けて去って行った。

一人取り残された私は落ちて形の崩れたカツサンドと少し潰れた紙パックのトマトジュースを見て苦笑した。


「零先輩が好きだからくまくんも好きそうだと思ったんだけどな……」


吸血鬼が同じものを好むなんて安易に考えたのが悪かった。

私はくまくんに嫌われているからくまくんの好きな食べ物がわからなくて、くまくんを怒らせた。

結果的にまた嫌われることになってしまって私は悲しくなった。

次はこんなことがないように真緒くんにくまくんのことを教えてもらおうと考えて私は袋を拾ってお昼休みが終わる前にと教室へと向かった。

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