僕と君の幸せな日々

□この恋はきっと永遠
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※現パロ。










私には最近気になる人がいる。

窓際の一番後ろの席。

整った顔立ち。

色白で華奢。

綺麗な男の人にしては長い緑の髪。

休み時間には大体、本を捲っている彼。

女の子から絶大な人気を得ているけれど、彼、リンハルトはたいして興味はないらしい。

実際私も、彼が何人かの女の子に遊びに誘われたのをなんでもない顔で断っているのを見たことがある。

私は遠くから見ているだけで、目の保養になるので満足だったのだけれど、最近やたらとリンハルトに声をかけられるのだ。

今だってほら、少し彼の方を見ただけでそれに気づいた彼が読んでいた本を閉じて自分の席を立ち、私の席へと近づいて来ている。

本当は教室であまり話しかけてほしくないのだけど。……女子からの視線が痛いので。


「どうかした?」
『ど、どうもしないよ』
「だってこっち見てたでしょ?」
『……たまたま目に入っただけだよ』
「ふーん。でも、こうして話すようになる前から頻繁に僕のこと見てたよね?」
『えっ!?』


そりゃそんなに顔が整っていれば目がいくよ……だなんて正直に話せるわけもなく私は口篭る。

机を挟んで私を見下ろす彼を見上げていた顔をそっと俯けた。

でも、そんな露骨に見てたかな……?バレない程度だと思うけど……。


「誤魔化そうとしても無駄だよ。僕も見てたから分かるよ。名無しさんのこと」


その言葉に再び顔を上げ、彼と目を合わせた。

視線は少しだって逸らされない。真っ直ぐで曇りのない瞳になんだか吸い込まれそうになる。


『……見ちゃダメだった?』
「ううん。君なら良いよ」


そう優しい顔で微笑んだリンハルトに胸が高鳴る。

……あの時もこんな表情をしてた。

ただ見ているだけの私が彼と話すようになったあの時。

体育の授業中。彼がいつも髪を結っているリボンをしていないのに気がついた。

動く度に鬱陶しそうに眉を顰めていた彼に見兼ねて、私はこっそり声を掛けた。


『よかったら、これ使う?』


彼に向かって予備で持ってきていた髪ゴムを差し出した。

周りにバレないように声を掛けたのは、モテる彼に話しかけることへの女の子達への罪悪感とか、これで反感を買いたくないとか、初めて話すことへの緊張もあったかもしれない。


「えっ……?」


私が話しかけた瞬間、リンハルトは信じられないというように驚いた顔をした。

やがて、表情を和らげた彼は私の手からそっと髪ゴムを受け取って微笑んだ。


「ありがとう」


その声が弾んでいるように聴こえたのはきっと気の所為じゃないと私は思う。

それ以来、妙に話しかけられるようになり私と彼の距離は短期間で急激に縮まった。

当然、周りの子達はそれを見て色々と噂するし、羨ましがる子や妬む子がいるのも納得している。

……きっと、私だって密かに憧れていたリンハルトに急に仲の良い女の子が現れたら面白くない気分になっていたはずだから。


「……ねぇ、名無しさん。君に言いたいことがあるんだけど」
『え?いいけど、もうすぐ授業はじまるよ?』
「うん。今すぐじゃなきゃ嫌だ。僕はもう充分我慢したから」
『?……分かった。いいよ』


何やら真剣な様子の彼に断れず、私は頷くと彼は私に顔を近づけて内緒話をするように耳元に唇を寄せた。


「…好きだよ」


色んな気持ちが込められているのかその言葉は重く甘く私の耳元で響いて消えてしまった。

それだけ告げて離れて行った彼は静かに私を見つめて私の言葉を待っている。

私は驚きと衝撃で固まってしまっていて、早く何か言わなきゃと思っているのに言葉が出てこなかった。

そんな私に彼は何処か消え入りそうな笑みを浮かべて口を開く。


「別に返事はいらないよ。僕がどうしても君に伝えたかっただけだから」


そう言って私の席から離れて行こうとする彼の腕を立ち上がり慌てて掴んだ。


『……っ、待って!』


ここは教室で周りの視線や、彼を好きな女の子達がいることもその時は不思議と気にならず私は必死に彼を引き止め、不安気に揺れる瞳を強く見つめた。


『私もきっと、同じ気持ちだから……そんな諦めてるみたいな顔しないで』
「同じ気持ち?君が僕と……?」
『な、なんでそこを疑うの!?』
「……だって」


彼の腕を掴んだ手を引き寄せられ、私は彼の腕の中に閉じ込められてしまった。


「僕の方が絶対名無しさんを好きに決まってるからだよ」


そう言ってぎゅっと強く私を抱きしめるリンハルトに私はここが何処かを思い出した羞恥と周りの視線に死にかけたのだった。











名無しさんを見つけたのは偶然だった。

高校の入学式。

人混みの中で懐かしいその姿を見た時、僕は泣きそうになってしまった。

……あぁ、もうどうしようもないぐらい君が好きだ。

長い間離れていたって関係ない。

この気持ちは前世の僕のものだなんてそんなこと些細な事だ。

だって、名無しさんを見た瞬間、心が震えた。

これまで悩んできたことも、全て吹き飛ぶ程に僕は君が好きだから。

……涙は堪えた。君とまた会えたことは僕にとって紛れもなく嬉しいことだから。








けど、彼女は僕を覚えていなかった。









僕は偶然にも同じクラスになれた彼女を席から眺めるだけ。

本当は気にせず話しかけたかったし、昔と変わらないところを見つける度に愛しさが込み上げた。

でも、話しかけられなかったのはきっと怖かったから。

貴方なんか知らない。好きじゃない。と拒絶されることがどうしようもなく怖かった。

前とは違う姿を見つけると苦しくなった。

……やっぱり、僕は前世の思い出の中の君に恋してるのかも。なんて考えて遠くから見ていられるだけで満足だなんて、傷つかない為に妥協をしてしまっていた。

そんな時、ふと彼女と目が合ったような気がした。

授業中、休み時間。

それは日によって様々だったけれど、彼女からの視線を感じるようになった。

……なんでだろう。

それが無性に気になって落ち着かなくて、でもそれ以上に名無しさんが僕に興味を持っているらしいことが嬉しかった。

今まで他の女の子達に声を掛けられることはあっても君だけは話しかけてくれなかったから、てっきり僕に無関心なんだと思っていたから。

目が合った気がする。

それだけのことで僕は満たされた。

なのに、一体これはどういうことなんだろう……?


『よかったら、これ使う?』


体育の授業中。

朝寝惚けて髪を結び忘れたせいで顔にかかったりと何をするにも邪魔だし、寄りにもよって走らなくちゃならない日に忘れるなんてと、うんざりしていた時に横から何故か小声で彼女に話しかけられた。

僕は名無しさんに話しかけられたことに理解が追いつかず呆けた顔をしてしまったと思う。

それに、理解した瞬間分かりやすく笑ってしまったとも思った。


「ありがとう」


君はきっと髪ゴムを貸してくれたことへのお礼だと思っているんだろうけど、それだけじゃない。

僕に話しかけてくれて、前みたいに僕を気にかけてくれて、ありがとう。

……やっぱり見ているだけは嫌だ。

僕は君を諦めたくない。

その気持ちが増したのは、君のせいだよ。
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