僕と君の幸せな日々

□面倒くさがりの最愛
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※士官学校時。恋人同士。R15。致しませんが若干注意です。(主にリンハルトの言動)

















「あとで君の部屋に行くから」


別れ際、リンハルトはなんでもないようにそう言って私の返事も待たずにさっさと自室の方へ歩いて行った。

普段は何も言わずに勝手に部屋を訪ねて来る癖に、一体どういう風の吹き回しなんだろう?

そんなことを考えながら、自室の扉を開き中に入って扉を閉めたところで、ひとつの考えが浮かんでハッとした。

……もしやこれはそういうことなんじゃ?

私とリンハルトは幼馴染で気を使わない仲である前に、つい先日付き合った恋人同士だ。

今までは特に気にした様子もなく私の部屋を出入りしていたけれど、それはまだただの幼馴染だったから。

思えば付き合ってから私が彼の部屋を訪ねることはあっても、リンハルトから私の部屋に来る事はなかった気がする……。

何かが起こっても不思議じゃないのかも。

そこまで考えて私は首を振った。


『いやいや、でもリンハルトだしそんなことないか……』


今まで一緒にいて、彼がそういうことに興味がある素振りを見せたことは一度もない。


「もう、我慢しないから」


晴れて付き合うことになった後、彼がそう言って口付けてきたのを思い出して、私は堪らなく恥ずかしくなって勢いでベッドにダイブした。


『そんなことないよね……?』


恥ずかしさや不安、色々な気持ちが綯い交ぜになる。

胸に抱いた枕をぎゅっと握りしめても説明し難い気持ちは治まりそうもなかった。




















「名無しさん?居ないの?」


先程から部屋の前で呼びかけても何の返事も返ってこない。

もしかして、出かけた?

いやでも、何の連絡もなしに彼女が約束を破るわけないか。

扉に手をかければ、どうやら鍵はかかってないようであっさり開いてしまった。


「不用心だなぁ」


呆れ半分、心配半分でそう口にしながら久しぶりに踏み入った彼女の部屋を見やれば視界の端のベッドで枕を抱いて幸せそうに眠っている名無しさんの姿が見えて僕は思わず深くため息を吐いた。


「君ってほんとさ…」


それは無防備にも程があるんじゃない?

そっと彼女に近づいて眠る名無しさんの横に腰掛けた。

知ってたけど、君が僕に無防備なのは。

それが信頼されてるし、信用されているからだということはわかってる。

でも、いつからだろう。それが嬉しくも苦しくなったのは。

今日だって僕がどういう意図で名無しさんの部屋に来たのかもきっと想像すらしてないんだろうな。

やっと、恋人になれても今まで距離が近かった分何をしても君は普段通りだから。

手を握れば恥ずかしがるけれど、それは付き合う前だってそうだった。

……キスをした時ぐらいかな。あんなに真っ赤な顔で狼狽える君が見れたのは。

それならその先は?

名無しさんに触れて僕の好きにしたい。

本当はずっとそうしたいって思ってた。

君を好きになってから、僕は随分欲深い人間になったと思う。

もっと君のいろんな顔が見たい。

僕にしか見せない。恋人にしか見せない表情。

幼馴染の僕には決して見せなかった姿を見たい。

僕の手で名無しさんの全てを暴きたいんだ。


『ん…?リンハルト……?』
「あ、起きた。おはよう。鍵空いてたから勝手に入らせてもらったよ」
『……え、私寝て……!?』


バッと状況を理解したのか慌てた様子で上半身を起こした彼女は枕を置き、落ち着かない様子で僕の隣に座った。


『その、寝ちゃっててごめん……』


恥ずかしそうに乱れた髪を手で忙しなく整えながら名無しさんは縮こまり、僕の方を見ようとはしない。


『そ、そうだ。お茶でも淹れるね!リンハルト、いつもので良い?』


そう場の空気を変えるように明るく言って立ち上がろうとした彼女の手を掴んで止めると、ビクッとあからさまに過剰反応した彼女はおずおずと僕に視線を向けた。


「僕が何しに来たか、わからない?」
『っ!わ、わからなくないです……』


敬語でそう言った彼女は真っ赤な顔で今にも泣きそうな瞳で僕を見つめた。

見つめあって数秒、僕はそっと名無しさんのうなじに手をまわしてその柔らかな唇に口づけを落とした。

ぎゅっと目をつぶって僕の背に手を回す彼女が可愛くて、愛しい。

もっと。

名無しさんが欲しい。

口付けたまま、彼女をベッドに押し倒しうなじに添えていた手を頬に移動させた。


『リン……っ』


息継ぎの合間に彼女が発した、たまに呼ぶ僕の愛称と同時に背中を軽く叩いて止められてしまい、僕は渋々彼女から唇を離した。

別に君を酸素不足で殺すつもりはないけれど、僕はまだ名無しさんとキスしていたかったから……。

そんな不満が顔に出ていたのか彼女は困った顔で笑った。


『……リンハルトが何を焦ってるのかわからないけど、私はリンハルトが好きだよ』
「えっ……。僕、焦ってる?」
『うん。その、私たちは私たちのペースで良いと思うし、そういう恋人らしいことも……えっと』


そう彼女は言葉をぼやかして口ごもった。


「ふーん。名無しさんは僕とそういうことしてくれる気あるんだね」
『い、いつかは……』


顔を逸らす彼女にふつふつと加虐心が湧いてくる。

ほら、好きな子には意地悪したいとかよく言うしね。別に悪い意味でじゃないけど。

なんて自身を正当化するようにそんなことを考えながら、頬に添えた手を下の方に動かそうとしたら彼女は焦った様子で僕の手を止めた。


『ちょっ、話し聞いてた!?』
「……確かに、君が言うように僕は焦ってたのかも。早く幼馴染の延長線上みたいな曖昧なものじゃなくて、名無しさんとちゃんと恋人同士になりたいって。けど、」


掴まれた手を強く握り返して彼女の瞳を見つめた。

……見透かすような綺麗な瞳。

僕は君から目を逸らすことも、君に抱いた気持ちをなかったように蓋をすることもきっとできない。

今までも、これから先もずっと。


「名無しさんと性行為したいと思ったのは焦ってたからだけじゃないよ。どうしようもなく君のことが愛しいから、触れたいんだ」


僕の言葉に彼女は耐えきれなくなったのか横にあった枕を僕の顔に押し付けてきた。

……本当に、僕の彼女は照れ屋だなぁ。


『いい加減、離れて!!』


必死さの滲む声を彼女が上げたから、今日のところは諦めて彼女の上から退いた。

僕があっさり諦めたのが意外だったのか、ベッドに寝たまま枕を手に僕を見る彼女は目を瞬かせている。


『良いの……?』
「うん。君を見てたら気が変わるかもしれないけど」
『っ…!!』


彼女は慌てて身体を起こしてベッドから立ち上がった。


「ふふっ。その調子で、これから2人っきりの時は油断しないでよ」
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