短編

□眠気より君
1ページ/1ページ









「リンハルトー!」


ちょっとした用事でリンハルトの部屋を訪ねれば彼は何故か床で寝ていた。

リンハルトのことだから、ベッドにたどり着く前に眠気に負けたのだろう。


「もう……仕方ないなぁ」


私の力じゃリンハルトを持ち上げてベッドに運ぶことが出来ないから、ひとまず毛布だけ彼にかけた。


「どうしよっかな……。誰か男の人に頼んで…」


そう考えながら部屋を出ようとドアに手を伸ばした時、背中に温もりと重みがのしかかって来た。


「僕に用があるんじゃなかったの?」
「…っ!リンハルト。起きてたの?」


振り返ることも出来ず、そのまま聞けばリンハルトは僅かに不機嫌を滲ませながら答えた。


「そんなことより、誰かの所に行こうとしてなかった?」
「そんなことよりって……。リンハルトが床で寝てるから誰かにベッドまで運んでもらおうと思っただけだよ」
「……ふーん。そんなの昔みたいに名無しさんが運んでくれれば良いのに」
「もう無理に決まってるでしょ。そりゃ小さい時はよくリンハルトを運んでたけど…」


小さい頃は体格も同じぐらいだったから運べたけど、それなりに大変だった。

息切れしながら運んだし、疲れて泣きながら家まで運んだこともある。

さすがに齢10歳を超えたらリンハルトもいきなり寝て私に運ばせたりはしなくなったけれど……。

身体が私よりも大きくなったからだと、思ってはいても少し寂しくもあった。

幼馴染みだとはいっても、家の都合もある。

ずっと一緒にいられる訳じゃない。

大人になればなる程、私達の距離は離れていく。


「あの、リンハルト……重いんだけど……」
「んー?」
「んーじゃなくて!ちょっと、このまま寝ないでよ!?」
「どうしよっかな」


近い。

世間一般的に幼馴染みの距離ってこんな感じ?

それって、男女でも?


「名無しさん。僕のこと意識してるでしょ」
「え!?」
「だって心臓の音、いつもよりはやいよ。それに」


肩を掴まれてリンハルトと向き合う形にされた。


「ほら。やっぱり頬が赤い」
「……っ、あんまりからかわないで」


指摘された瞬間、顔が熱いような気がして彼から顔を逸らした。


「ふふ。気分が良いなぁ」
「……そうなの?」


やけに上機嫌なリンハルトに嫌な予感がしつつも聞かずにはいられない。


「うん。だから特別に教えてあげる」
「っ!」


リンハルトが内緒話をするように私の耳元に口を寄せた。


「名無しさんといる時に僕が寝たことなんて1度もないよ」
「な、なんで……?」


問いかけた瞬間、軽く唇が耳元に触れた。

擽ったくて私の肩が跳ねたのを見てリンハルトが楽しそうに笑う。


「そんなの好きな子に触れたかったからに決まってるでしょ?」


彼の衝撃の告白に、渡そうと思って持ってきた手にしていたままだったクッキーの袋が手から落ちていった。
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ