夏目ちゃんとかみ合ってない
□油断大敵
1ページ/1ページ
※女体化短編『夏目とかみ合ったけれど』の夏目視点です。
今日も今日とてボクと夢咲はラブラブで、学院中が羨むラブラブカップルだ。
それはもう隠さなくて良いと言われてから学院内では所構わずイチャついている。
彼女は人気者だからね。牽制はしすぎるぐらいが丁度良い。
「じゃあまたネ。ソラ」
気まぐれに来たゲー研でソラと格ゲーを何戦かして活動を切り上げた。
そろそろ夢咲も仕事が終わって退屈になる頃だろうと部室を後にする。
今日は何処にいるのかナ?
メッセージを送っても既読がつかない。
あれ?おかしいナ。今日は早く終わるって聞いてたんだけド…。
なんだか嫌な予感がしてボクは夢咲を探しに学院内を見回した。
学院内には見当たらず、なら外だとガーデンテラスを通りかかると良い香りがした。
「……」
紅茶部の活動は確か今日はないはず。
頭を過ぎった嫌な奴のせいでその先を進むことを躊躇う。
けれど、もしも夢咲が居たらと思うといても経ってもいられずボクはテラスに足を踏み入れた。
「ちょっト、これはどういうことなのかナ?」
嫌な予感は見事的中した。
夢咲はガーデンテラスの椅子に腰掛け、テーブルを挟んで向かいに腰掛けている天祥院英智と紅茶を飲んでいた。
「おや、逆先さん。丁度いいところに」
「なにが丁度いいのかナ?」
「私と君は恋のライバルだからね。正々堂々と戦いたいから」
「………フーン。そういうことネ」
ニコニコと楽し気な天祥院英智にボクは舌打ちをすんでのところで堪える。
夢咲もいるんだし、舌打ちなんてしたら恐がらせるからね。
それに、いくら天祥院英智が夢咲を好きでもボクらは恋人同士だし、勝ちは確定なんだから余裕を見せるべきだよね。
「でも残念だけド、ボクと夢咲は付き合ってるノ。だかラ、誰も割り入ることは出来ないヨ。…ていうか、させないかラ」
ボクはそう言って夢咲の腕に抱きついた。
べーっと舌を出して天祥院英智を挑発しても、穏やかな笑みは一切崩れない。
「君は本当に夢咲ちゃんが大好きなんだね」
「当然!」
即答したボクにそいつは目を細めて、悪魔のような笑みを浮かべた。
その表情に薄ら寒さを感じながら、ボクは真っ直ぐに天祥院英智を見据えた。
「でも、夢咲ちゃんはどうなのかな?」
「はァ?夢咲だってボクを好きに決まってるヨ。付き合ってるんだかラ」
「そうだけど、夢咲ちゃんは人気者だよ。彼女はこの学院に通うアイドルみんなのプロデューサーで、みんなに好かれ、みんなに尊まれ、大事にされている。私のように彼女を愛している人は山ほどいるでしょう?」
「………だから何?老害(ロートル)」
ボクは夢咲を信じてる。
他の誰が夢咲を好きだといっても、夢咲は絶対ボクの傍から離れて行ったりしない。
そう、信じているのに、何故か不安になって夢咲の腕を強く抱きしめた。
「みんなが夢咲ちゃんに告白したらどうだろう?例えば、彼女と仲の良いTricksterの子達とか、優しい彼女は気持ちを無下に出来ないと思うけれど」
「……それハ」
「ちょっと待ってください!えぇっと、その…」
今まで黙っていた夢咲が声を上げた。
勢いで話しだしてしまったのか、数秒考えてから再び口を開いた。
「よくわからないんですが、とりあえず私なんかをみんなが好きとは思えないです。好かれてはいると思いますが、友情的な意味かと…。ですが、もしも恋愛的な意味で好きだと言ってくれる子が居たとしたら、私は」
夢咲の横顔を見つめていたボクを見て夢咲は微笑んでから、天祥院英智を真っ直ぐに見た。
「夏目ちゃんが好きだからって謝ります」
「…夢咲……っ!」
ハッキリ断言してくれたことが嬉しくて、不安なんか消し飛んでしまった。
ボクより幸せの魔法をかけるのが上手い愛しい恋人に感極まって口づけを贈る。
…残念ながら頬にだけど。
「……ラブラブだね。例え話しとはいえ今しがた振られた私の前で」
「いい気味だネ♪」
そう言って笑ってやれば、天祥院英智は僅かに眉を寄せて、なんでもない風を装いながら紅茶のカップに口づけた。
「でも、直接振られた訳じゃないし、諦めないから覚悟してね」
そう言い夢咲にウインクをした
天祥院英智を殺気立って睨みつける。
夢咲は言葉の意味を理解してはいないようだけど、ボクらの関係を完全に理解した上でまだ夢咲を諦めない諦めの悪さとしつこさに苛立つ。
何より、ウインクしたのが気に食わない。
ボクの夢咲に!
「死ね」
苛立ちと憎悪を吐き捨てるようにそう言ったボクを相変わらずの憎たらしい笑顔で天祥院英智は見据えていた。
本当に何処までも気に喰わない奴。