ゆるゆる創作(2020.1〜

□「すれ違い」 (恋人は公安刑事/東雲歩)  2020.1.25
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先週から引きずっていた案件もようやく解決し、報告書も無事にあげた週末。

(長かった…本当ーーーに長かった!!)

歩さんは、来週からの卒業試験に備えてなのか早めの帰宅。

ってことで、久しぶりのオウチご飯!
張り切って作ったのは、もちろん…


「ようやくキミのエビフライも人並みになったよね」

「それは、うわ、上達したよねー、ってことでいいんですよね!」

「なに、その相変わらずなプラス思考…」

「いいんです、歩さんのわかりにくい優しさにはもう慣れてますから」

そんな会話をしつつも、食べ終わった食器を下げてきてくれる歩さん。

(やっぱり優しい…)

「なに、またニヤニヤして。キモ」

「ふっふっふー!今日はいい物を見つけたんですよ」

「キミのそう言う物で、本当に良かった物はなかったけどね」

「あっ、これを見てもそんなこと言います?」


買い物袋の中から、それを出して見せると…

「……!!!」

「見つけた瞬間、即買いでしたよ!」

「バカ?こんなのでオレが喜ぶとでも思ったわけ?」

「そう言いながらも、顔つきが変わったの見逃しませんよ」

「……キモ」


こんな風にあれこれ言いながらも、2人で洗い場に立つ。

「せっかくだから、それ、貸して」

歩さんの手に、恐竜型のスポンジが握られる。
いつかのように、歩さんが洗った皿を私が拭いていく。

(保育園に泊まった時…あの時願った歩さんとの結婚生活が、こんな風に現実になるなんて…)

「何またニヤけてんの。ホント、キモいんだけど」

そういう歩さんの顔は、やっぱり優しくて。

「いいなぁ…と思っただけです」

「え、なに、洗いたかったの?いいよ、代わっても」

「……!そういうことじゃなくてですね、」

「うん、ちゃんとわかってるから」


カチャカチャと、皿洗いの音だけが響くキッチンで。ゆっくりゆっくり、幸せを噛みしめていた。



* * * * * * * * * * *



「…という夢を見てですね、帰りに恐竜型スポンジを探したんですけど売ってなくて」

ウチに来てから、やけにニヤニヤしている彼女に理由を問いただすと。
やたら幸せバカな夢物語を聞かされた。

(まあ、そんなことだろうと思ってたけど)

それにしても、恐竜型のスポンジって…

「ねえ、そのスポンジってさ…」

「ハイ、目覚めた後すごく気になって探したんですけど、恐竜型は無かったんですよね…ゾウさん型やウサちゃん型はあったんですけど…」

「ウサちゃん型?」

その言葉に、ひどく反応してしまう自分を呪いたい。なのに、彼女ときたら。

「ウサちゃん型も可愛かったんですよー。耳のところが何ともいえないくびれ具合で」

そんなこと聞いてない。
ただでさえ班が違って会えないのに、ようやく取れた2人の時間に、割り込むようなあの人の顔と声がチラついて。

「いらないから。ウサギも、ゾウも」

「え、でも可愛くてですね」

「必要ないってば!」


つい、八つ当たり的な返事をしてしまった。


「あ…すみません…」


彼女の表情がみるみる沈んだものになる。
しまった、と思った時にはもう遅かった。

「あの私、帰りますね。そう言えば明日も早いんでした」

そんな明らかにわかる嘘を残して、帰っていく。

またやってしまった。
そうじゃないのに。
あの子を、オレが不安にさせてはいけないのに。

すぐさまスマホを手に取る。

『さっきはゴメン。言い過ぎた。あと、見せたいものがあるから戻ってきて』

LIMEが既読になったのを確認したオレは。
今日の帰りに手に入れた、恐竜型のそれを。
そっと握りしめシンクの脇に置いた。

…戻ってきた彼女の笑顔が見られることを祈りながら。




2020-01-26
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