ワンライのお部屋3(2018.4〜   )

□ 心配性 (教師たちの秘密の放課後/世良英貴) 2019.9.21
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「世良先生、おはようございます!」
「はい、おはようございます」

今朝は、校門での挨拶当番。
ここにずっと立って笑顔でいるとか・・・何の罰ゲームだよ。
こんなの、あの熱血体育教師にでもさせときゃいいだろ。

こんなことをしてる暇があったら、小テストの問題でも考えたいところだ。
翻訳も、もう少し進めたいし・・・

誰にも気付かれないように小さくため息をこぼした、その時。


「え、うそっ!星野先生と神狩先生が?!」
「ほんとほんと!昨日、塾に向かうときに、私バッチり見ちゃったの!」


星野先生・・・鈴の名前が聞こえてきて、俺は思わず耳を澄ます。

「楽しげに会話しながら、居酒屋に入っていったの。二人きりで!」
「先生たちも恋愛解禁になったのかな〜」
「そうかも!お似合いだよねー」

女子生徒たちは、悪びれる様子もなくキャッキャッと話しながら通り過ぎていく。


(ああ、昨日のことか・・・)

昨日は、久しぶりに大将の店に集まっての飲み会だった。
俺と田石先生は部活を終えてから、遅れて行ったのだが。

(鈴と神狩先生は早めに上がっていたから、そこを見られたのだろう)

いくら恋愛解禁になったとはいえ、生徒に見られるとは。
しかも・・・他の男と。

(油断してたな。神狩先生も珍しく詰めが甘かったのか)



この時は、ただこう思っていたのだけれど。


* * * * * * * * * *


「えー、神狩先生と星野先生が?」

先日もどこかで聞いたような会話が聞こえてくる。

「はい、そこのお二人。授業中なので私語は謹んでくださいね」

今は授業中。いくらヒソヒソ話していても、周りには聞こえていたようで。

「えっ、何々〜?」
「昨日、文具売り場で万年筆見ている二人に遭遇しちゃったんだよね」
「神狩先生と万年筆!似合いすぎ〜」
「お揃いを選んでいたとか?」
「わぁ、なんか憧れちゃうそういうの!」

教科書を読み進めながらも、さっきから耳に入ってくる会話が煩い。

(一緒のところを見ただけだろ。なんでお揃いとかそうなるんだよ)

というか。

(昨日一緒だったって?そんなこと聞いていない)

一瞬の余裕のあと、黒い感情が胸に広がっていくのを感じた。



* * * * * * * * * *


その後も、そういった噂を何度か耳にし。

俺のフラストレーションもいよいよ限界、に近づいた頃。

職員室で、PCを凝視する鈴。
・・・を、後ろから覗き込むような神狩先生。

(なんだあれ・・・あれじゃ囲い込んでいるのと同じだろ!)

胸の奥がザワザワする。

(あれじゃ、誰かに見られても言い訳できないだろ)

実際、他の誰でもない俺に見つかったのだ。

(何を話してるんだ?しかも鈴、涙ぐんでないか?)

・・・よく見ると。
困った顔の鈴を、神狩先生がなだめているようだ。
どういうことだ?

これ以上、黙ってはいられなかった。

「こんな時間まで、残ってらっしゃるんですね」

俺の声に、ビクッとした鈴。
神狩先生は・・・落ち着いている。が、手は鈴の肩に添えられたままだ。

「星野先生、どうかされたんですか?」

牽制の意味もこめて、二人の間に割って入ると。

「星野先生が、大層困っておいでです。私では、解決できかねますので」

この先は、世良先生に是非、と言い残し、神狩先生は職員室を出て行った。



「で?この状況はいったいどういうことだ?」

星野先生が困っている、と神狩先生は言った。それはつまり、神狩先生には困りごとを相談したということで。

「俺には、話せないこと?」

鈴は、黙っている。

「お話していただけないんじゃ、こちらもどうしたらいいものか・・・」
「英貴さん・・・」

耐えかねた俺は、感情を抑えるべく『優しい世良先生』の口調になってしまう。
彼女も、それに気付いたのだろう。
俺から視線を外し、たった一言。

「今は・・・お話できません」

今は?何故、どうして。
訊ねたいことはいくつもある。

別に、神狩先生とのことは心配していない。
けれど、俺の知らないことを他の男が知っているかと思うだけで、俺は―――

「言え」

いつもと俺の様子が違うことに気付いたのか、観念したように彼女が口を開く。

「心配だったんです」
「心配?」

一体、何が?

「ここ数日のアンタを心配していたのは、俺のほうだけど?」
「英貴さんが?私を?」

無自覚かよ、と小さくため息を落としてみる。

「いくらアンタを信頼してるとはいえ、他の男との噂を聞かされたり、他の男に触れられている姿を見ている方の身にもなってもらいたいな」
「噂?誰がですか?」
「アンタと神狩先生」
「ええっ?」

「それで?星野先生の困った心配事とは何でしょうか」
「笑わないで、くださいね?」
「内容にもよりますね」
「実は・・・」

俺の誕生日のプレゼント候補を、他の先生方にこっそりリサーチしてもらっていたこと。
以前、翻訳のサインを書くのに、万年筆がいいか神狩先生に俺が尋ねていたこと。
それならば、万年筆を贈ろうと、神狩先生ご用達の文具店を紹介してもらったこと。

「なのに万年筆は、恋人に贈るにはふさわしくないと書いているサイトがあって・・・」

実は、と前置きされた割には、どうでもいいような事で・・・

「俺は、アンタが選んでくれたものは何でも嬉しいと前に伝えたよな?」

アンタが傍にいることが、これ以上ない贅沢だと。

「どうやら、星野先生には分かっていただけてないようなので」

胸の奥の黒い霧が晴れた分、鈴への愛しさがこれまで以上に増してゆく。

「僕の伝え方が不十分だったのでしょうね。・・・今夜は覚悟しろよ?」

顔を真っ赤にした、愛しい心配性の彼女の手を取り、職員室を後にした。


〜〜〜世良先生、Happybirthday!!!〜〜〜




2019-09-21
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