ワンライのお部屋3(2018.4〜   )

□ 夏祭り (恋人は公安刑事/百瀬尊) 2019.8.3
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なんで、こんなことに……

今日は夏祭り。
私は浴衣姿。
そして隣にも、浴衣姿のカレ。
…ただし、思いっきり不機嫌そうな顔の。

「あの、百瀬さん」
「……」
「私が相手じゃ不満なのはよーーーくわかってますから、あの、もう少しだけ表情を和らげてもらえたらなー」
「……」
「…なんて、無理ですねすみません。
でも、津軽さんのお願いなんですから、せめてもう少しゆっくり歩いて…」
「はーーーっ」

心底嫌そうなため息のあと、ほんの少ーしだけ緩められた(ような気がする)頬と歩幅。
黙っていれば、いい男なのにな…

何故か私は、最初から嫌われているらしい。津軽さんの名前を出せば、話を聞いてくれる(くらいにはなった)けれど。

遠くから聞こえる踊りの唄と歓声。屋台からの香りと売り声。色とりどりの浴衣の波。
この楽しげな雰囲気の中で、あきらかに私達だけが浮いている。

それもこれも、津軽さんのせい。
津軽さんのエス…いわゆる協力者がこの祭りの露店に出店するというので、会うことになったのだけど

(この格好する必要あった?)

「せっかくのお祭りにさー、このまま行くのもねえ。モモとウサちゃんは浴衣着てきなよ」
「えっ、私達だけですか?津軽さんは?」
「んー、俺はいいかな」
「今、ぜったい面倒臭いって思いましたよね?」

そんなやり取りの末、着てきたのはいいけれど。
浴衣姿の私を一瞥することも無く、先へ進む百瀬さん。

別に、何か言ってほしい訳ではないのだけれど…全く反応が無いのも虚しいというか…

(津軽さん、早く来てくれないかな)

あんな意地悪上司でも、百瀬さんと2人きりよりはマシ…

(普段もこんな風なの?確か、彼女いるんじゃなかったっけ?)

まさか彼女の前でもこんな感じ?
いやいや、それはないでしょ。きっと不意に見せる笑顔が可愛かったりとかさ…
何かひとつくらい、ときめきポイントがあるんだろう、うん。
私のような凡人にはわからないような、何かがきっと…

などと考えていたその時。

数歩前を歩いていた百瀬さんが振り返り、見たことのないような微笑みで戻ってくる。

(えっ嘘でしょ?笑顔?待って、どうして?)

1歩、1歩と近づき、とうとう目の前に。

「お疲れ様です!」

あれ?
私の横をすり抜け、笑顔を向けたその先には津軽さん。

(なんだ、そっか、そういうこと…そうよね、わかってたけど!)

浴衣姿の女子よりも、鬼上司へ向けた笑顔が眩しいなんて。

(さすが、津軽さんの犬…)

百瀬さんに認められるのは、どんな人なんだろう。
彼の目に、私がしっかり映る日は来るのだろうか。

(べ、別に深い意味じゃなく!こ、後輩として、ね、うん)

誰に聞かれているわけでもないのに。
心の中で、変な言い訳をして。

「津軽さん、お疲れ様です!」

さっき見た幻の笑顔は、ひとまず忘れることにして。
二人のもとへと駆け寄った。



2019-08-05
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