ワンライのお部屋3(2018.4〜 )
□ 七夕 (大人の初恋はじめます/森町誠) 2019.7.6
1ページ/1ページ
「あれ、何だこれ」
出窓に置かれた観葉植物に、何かがぶら下がっている。
そっと近づき手に取ると。
『パパのけんきゅうがせいこうしますように。はやくかえってきますように。』
これは…ひまりの字か?
「ああ、それね。七夕の短冊。幼稚園で書いてきたのよ」
「ひまりが、幼稚園で…」
「先生にも、ひまりちゃんはパパが大好きなんですね〜、って言われてね」
そっか…ひまりが…
先週は仕事が大詰めで、研究室にこもりきり。家に帰っても、娘の寝顔を見るだけの毎日だった。
怒涛の1週間が過ぎ、今週末はこうして家でゆっくりできているのだけれど。
「寂しがらせちゃったかな」
「ふふっ、そうかも。家には笹が無いから、そこに吊るして、ってお願いされたし」
その時の娘の顔を思い浮かべ、幸せを噛みしめる。
初恋が実り、娘も産まれ、穏やかな家族の時間を持てている俺は、本当に幸せだと思う。
「これからもパパは頑張らなくちゃな」
決意を口にしながら、もう一度短冊を手に取る。
すると。
「あれ、後ろにもう1枚」
さっきは気が付かなかった小さめの短冊。
そこには、
『いちやくんと、もっとなかよくなれますように♡』
これって…しかもハート付き…
「そっちは、家に来てから書いてたの。幼稚園じゃ恥ずかしいからって」
「そ、そっか…」
何となく寂しいような、でも応援したいような。
早く起きてこないかと待ちわびながら、娘の初めての願い事にそわそわするのだった。
2019-07-14