ワンライのお部屋3(2018.4〜 )
□ 雨音 (大人の初恋はじめます/御園一弥) 2019.6.1
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ふと薄暗さを感じ、窓の外を見やると
(雨か…気が付かなかった)
防音サッシの性能も上がったおかげで、こうして家に居ると雨音が聞こえることはほぼ無い。
昔は雨の音が不快でたまらなかった。
灰色の曇った空、リズム感も何もない壁を叩きつける音。
不協和音にも似たそれは、俺の心をざわめかせるだけで。
…それに被さるように聞こえてくる、両親の言い合う声…
全てを排除したくて
それらを耳の奥からかき消すように
ただただ、鍵盤に向かっていたあの頃…
自ら進んで練習した訳ではないのに上達したピアノは、決して楽しいものではなかった。
けれど今。
我が家には、また新しいピアノがある。
奏でているのは…娘だ。
今日のような雨の日も、実に、楽しそうに。
部屋の中では聞こえるはずのない雨音までも伴奏にして、優しい音色を響かせてくれる。
(同じ楽器で、こうも違うとはな…)
娘の横で、歌を口ずさむ締まりのない横顔をそっと盗み見る。
(すべては、こいつのおかげ、か)
この2人が傍にいれば。
淀んだ空も、湿った空気も、あの頃の行き場のない気持ちも。
すべて吹き飛ばされ、リセットされるような気さえして。
「お父さん、どう?少しは上手くなったでしょ?」
得意顔で訊ねてくる娘に
「ああ、上手くなったな。楽しいか?」
そう返すと、とびきりの笑顔が向けられた。
(こんな雨の日なら、悪くないな…)
不快だったはずの雨音は、今では幸せの音色だと思いながら…
2019-06-01