ワンライのお部屋3(2018.4〜 )
□ 溜め息の訳 (恋人は専属SP/一柳昴) 2019.5.4
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「もう!私の方がいいところまで詰めていたのに!」
「仕方ねぇだろ、あの後一気に事態が急変したんだから」
「次こそ!私がいる時に・・・」
また、あの二人か。
「お前たち、そのへんにしとけよ」
「あっ、昴!だって、今回も誠二に横取りされたのよ」
「横取りって、お前な・・・」
後藤と、夏月。
殺伐とした職場で、オレが気兼ねなく話せる二人。
仲間、と呼ぶには大げさにしても、良い意味でライバル。
そんな二人は、お互いを思いやっていて・・・
(あの竹を割ったような性格の夏月が、後藤と付き合うとは意外だったが)
口数の少ない後藤のどこがいいのか、と思うこともあるが、なんだかんだでうまくいっているようだ。
オレも後藤も、他人と相容れるのが苦手で。
そんなオレ達を、うまく取り持ってくれる存在が夏月だった。
―――あの時までは。
* * * * * * * * * * * * *
刑事課では、あの後も何事もなかったかのように仕事に追われ。
オレが夏月を思い出すことは少なくなっていた。
いや。
思い出さないようにしていた。
忘れることはなくても、夏月の分までやらなければと、動くしかなかった。
なのに、アイツは。
夏月の隣で、夏月に愛されたアイツは。
(何やってんだよ!)
声に出そうな苛立ちをおさえながら、目の前の空白のデスクを見る。
いつもなら、乱雑に書類が積み上げられていたその机は、数日前から無人のままだ。
(そろそろ、様子を見に行くか)
スーパーで食料を買い込んで、アイツの家へ向かう。
(そういや、夏月と三人で鍋を囲んだこともあったな)
あの頃と、自分は何も変わっていないのに。
自分以外の変わってしまった二人を思い、溜息をつく。
(なあ、夏月。オレはどうしたらいい?)
もう、その答えは聞けないのに。
オレの想いも、伝える術はないのに。
しばらく目を閉じ、佇んでいたオレは。
(仕方ねぇ。お前の代わりに、アイツに渇をいれてきてやるよ)
オレの中に生き続ける、愛しい存在の彼女にひっそりと誓いながら。
今は、ライバルと呼ぶには情けないアイツの家へと、足を速めた。
2019-05-05