ワンライのお部屋3(2018.4〜 )
□ 引っ越し (マスカレード・キス/BOSS) 2019.4.6
1ページ/1ページ
-ヒロインside-
「お招きありがとうございます。でも驚きました」
「どうして?」
「だって、引越し先を教えてもらえるとは思ってなかったので……」
突然入ったボスからの連絡。
当然、次の任務の件かと構えた私に告げられた言葉を、直ぐには信じられなかった。
「誰にでも教えるわけじゃないよ。その辺、優秀な君なら分かってると思ってたけど」
(真顔でそんなこと言うのずるい…)
「相変わらず何もない部屋だろう?日当たりも、間取りも決していいとは言えないがね」
西日がわずかばかり差し込むだけの狭い部屋。
そんな部屋を借りるのは、ここに戻る日は多くないということ。
(また次も激務なんだ)
そんな思いは口にせず。
「何もないなんて…クロトンがあるじゃないですか。あと…」
「あと?」
(目の前にスペシャルな男が…なんて言えない)
言い淀んでボスを見上げた瞬間、顔が近づき…
その後は覚えていない――――
☆☆☆☆☆
-ボスside-
次のミッションのために、新たに借りた部屋。前回よりも狭く、日当たりも決して良くない。
(だが、これでいい…)
どうせ眠るためだけの部屋だ。最低限、雨風がしのげればいいだけのこと。
部屋の1番大きな窓の傍にクロトンを置く。
引っ越しはこれで完了だ。
そう、いつもならこれで完了。
なのに…
今回は、何もない部屋に落ち着かない自分がいる。何かが、足りない。
あの日から、自分に足りないもの。
それは―――――
気がつくと、1人のエージェントの名前をタップしていた。
そして、通話ボタンを押す。
「今から来られないだろうか」
自分の中に芽生えた、異質な、しかし甘美で勿体ぶった感情のままに――――
2019-04-13