ワンライのお部屋3(2018.4〜   )

□ 新しい年を迎えて (恋人は公安刑事/東雲歩) 2019.1.5
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「新年おめでとうございまーす!」

今年1番に聞いた挨拶は…彼女ではなく、テレビの正月番組の司会者の声だった。

(はぁ…)

彼女は今、公安学校同期の仲間たちと、どこかの神社の鐘を鳴らしているはず。

(彼氏との年越しより優先させるとか…なんなわけ?)


あと1時間で年が明けるというタイミングでかかってきた、鳴子ちゃんからの初詣の誘い。

てっきり断るだろうと思っていたのに

「行ってもいいですか」

突然聞かれたから、つい

「別に、行ってきたら」なんて、答えてしまい。

そそくさと出かけてしまうとは、思ってもみなかった。


さっきまでここにいて
国民的歌番組を見ながら、ああだこうだと言い合って。

年越し蕎麦は、正直食べ飽きたところもあると話したら、

「年明けうどん、っていうのがあるみたいですよ!それにしましょう!」

なんて言ったりしてたのに。


リビングの棚に飾られた鏡餅を見ながら、再度ため息をつく。

鏡餅のサイズに合ってない大きすぎるミカン。

(アレ、頭でっかち過ぎない?今にも転がりそうなんだけど)

(って、あと10日もこのミカン飾られてるの?)

目障りなミカンを勝手に寄せるわけにもいかず、仕方なく彼女が戻るのを待つことにした。


* * * * * * * * * * * * *


ふ、と目が覚めると、部屋には出汁のいい香りが漂っていた。

(やば、寝てた…)

「あ、起きたんですね!歩さん、あけましておめでとうございます!」

「おめでとう。もう戻ってたの」

「だって、歩さん体調あまり良くないですよね?」

「え?」

そう言われると、歌番組を見ている頃からぼんやりしてたような…
うたた寝してしまったのも、そのせいか…

「無理して欲しくなかったので、この私が歩さんの分も代わりにしっかり拝んできました!」


なに、それ…
ほっとかれた訳じゃなくて、オレのため…?

ああもう!
この子のこういうところ、今年もそのままでいてほしいって…

そんなふうに願った、その数秒後。


「歩さん、知ってました?初詣って甘酒飲めるんですねー!」

「ああ、準備してくれてる所もあるみたいだね。やっぱり飲んできたんだ?」

「寒がってたら、千葉さんが取ってきてくれてですね!」

「…新年早々、他の男の話?」

「え、千葉さんですよ??あっ、それから偶然宮山くんにも会って!和装だったんですけど、なんだか新鮮でした」


…それ絶対、偶然なんかじゃないから!


やっぱり撤回。
今年は、もう少し彼氏の気持ちを考えた方がいいんじゃないの?

「さて、と。年も明けたことだし、どうする?」

少しは仕返ししてやろうかと、ゆっくり顔を近づけ、指で唇にやわやわと触れてみる。

「だ、ダメですよ、今はゆっくり休みましょう!」

「一人で待ちくたびれちゃって、無理」

「ダメダメ、なすびの夢が見られなくなっちゃう!」

なすびの夢?
縁起がいい夢のあれ?

「…なんで3番目?富士山と鷹は?」

「それは歩さんが見てください」

「あー、ハイハイ…じゃあ遠慮なく」



仕方ないから、今日くらいは言うこと聞いてあげる。
でも、明日からは覚えておいて。

とりあえず今日はしっかりと眠って…

起きたら、まずは。
年明けうどんと、あの釣り合いの取れてないミカンを食してやろうと。


そんなことをこっそり考えながら、手を繋いで、眠りについた。



2019-01-07
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