ワンライ(スタマイ)のお部屋(2017.10.1〜

□心を込めて  (新堂清志BD) 2020-05-08
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カランカラン

閉店時間が近づいたある日の夕暮れ。

「いらっしゃいませ、新堂様」
「久しぶり、マスター。今日は…」
「オーダーですね、ありがとうございます」

顔を見れば、何を希望しているかわかるくらい馴染みの上客。

「こちらの生地は昨日入ったばかりのイタリア製です」
「なるほど…しっとりとした重みがあっていいな。だが、今回は…もう少し軽めのをお願いしたい」
「おや、新堂様にしてはお珍しい。いつもなら、戦闘服かと思われる程かっちりした生地を好まれるのに?」
「…コホン…今回はプライベート用なのでな」
「では、こちらなどいかがでしょう?」

敢えて今までとは違ったタイプを勧めてみる。

「ああ、いいな。色も、これなら…」

愛しいものを思いうかべるような表情。

(ほう、この様なお顔もなさるのですね)

「こちらですと、デザインもいつもと違う方がよろしいでしょう。採寸のお時間はございますか?」

ああ、と短く返事をし、上着を脱ぎ始める。
鍛え抜かれた身体。そしてやはり、今回も。

「また筋肉が付いたようで…型を取り直した方が良さそうですね」
「すまないが、そうしてくれ」
「お仕立てあがりの希望日はございますか?」
「5月上旬は可能だろうか?」

上旬…チラリと顧客カードに目を落とす。

(ああ、なるほど…)

「ええ、大丈夫でございます。前日、7日までには仕上がります」

その言葉に、少しはにかんだ様に見えたのは気のせいではありますまい。

「…っ、ではそれで頼む」
「かしこまりました」

プライベート用のスーツ。
出来上がりは、お誕生日の前日。

今までに無かった特別なオーダーに、こちらも心が踊る。誠意を持って、そして心を込めてお仕立て致します。

―――どうか当日が、素晴らしい日となりますように。



2020-05-08

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