ワンライ(スタマイ)のお部屋(2017.10.1〜

□お題:差し入れ  (山崎カナメ×泉玲) 2019-07-06
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「ねぇ、これは何かな?」
「え、捨てられる皮でしょ?」

ここは俺の部屋。
日曜日の昼下がりに、二人きり。
いわゆる、おうちデートってやつ。
…もちろん、俺が、誘った。

けれど、さっきから甘く切ない雰囲気なんて微塵もなく、飛び交う会話は無邪気なものばかり。なのに、飾らない本音だと思うと照れくさい。

「突然料理がしたいなんて言うから驚いたよ」
「作り方は豪さんに聞いてきたけど、玲さんと一緒に作りたかったから」

そう伝えると、分かりやすく頬を染めて。

「それは光栄というか何と言うか…でもその人参はどうかと思うよ?」

俺の手元を見ながら苦笑する。あぁ、その顔も可愛いな。

「もう皮むきは私がやるから、カナメくんは鶏肉を切ってくれるかな」
「ん、分かった」

今日は七夕。晴れていたら外出するつもりだったけれど、ここ数日続く雨のせいで、今夜の星空は期待できそうにない。
でも、デートはしたい。そこで思いついたのが一緒に料理をすること。
メニューは、もう決まっている。出来上がった料理を食べる場所も。

「肉はこのくらいの大きさでいい?」
「あ、バッチリ!じゃあ鍋に入れて」
「了解」
「野菜よりも肉を切る方が上手いなんて…さすが医者の卵」
「それ関係ある?」
「関係ないか、アハハ」

たわいもないこんな会話でも、嬉しくて、ときめいて。

(ああ、もう重症だな俺)

自分よりずっと大人の彼女が、やたら可愛くて。普段の姿より幼く見えるのは、俺の前だからだろうか。
こんなに年上を、本気で好きになるとは思わなかった。こんなに入れ込んで、夢中になるのは、きっと血筋なんだろう。

隣に住むあの人の顔を思い浮かべ、苦笑する。

「あっ、手を止めないで調味料入れたらよく混ぜて!」
「ハイハイ」

豪さんのように手際よく…とはいかなかったけれど、2人で作った俺の初めての筑前煮は、思いのほか上手くできた。

せーの、の合図で味見をする。
互いに顔を見合わせて
「美味しい」
「うん、美味しい!」

鍋から大皿に移し、最後に七夕の雰囲気だけでも…と玲さんが星の形に型抜きした人参をのせた。

「完璧だね!」
「そうだね」
「山崎さんも喜んでくれるよ」
「…だといいけど」

いつも差入れされてばかりのそれを、昨日が誕生日だったという隣人に届ける。ただそれだけなんだけど。

「でも、良かったの?」
「何が?」
「あの、その家族の団欒に私がお邪魔しても」
「団欒とか…そんなんじゃないから。それに、いつか『お邪魔』じゃなく、そうなるでしょ」
「…!!」
「そうする、つもりだから」

そう、いつか、必ず。
その時の玲さんと隣人の顔を想像し、くすぐったい気持ちになった。



2019-07-07

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