ワンライのお部屋2(2017.4〜2018.3)
□ 初対面 (恋人は公安刑事/加賀兵吾) 2018.3.31
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「テメェが総理の娘か」
初めて会ったその男性は、私の顔を見るなりそう言った。
「加賀さん、いきなりそれはないでしょう・・・」
隣で、昴さんが苦笑いしている。
「あの・・・?」
「智里さん、こちらが今回担当する公安の加賀警視です」
桂木さんが紹介してくれている間も、その男性は、私を値踏みするような視線を寄こすだけ。
私はお父さんじゃないし、特別扱いされたいわけではない。
けれど、初対面のひとに、あからさまにこういう態度をとられるのも慣れていない。
「加賀さん、今回はお世話になります。よろしくお願いします」
「お世話するつもりはねぇ。俺は、俺の仕事をするだけだ」
今回、お父さんと私への脅迫状が届き、いつもと違う警護体制が敷かれることになった。
桂木さんの話から、いつもとは事情が違うと察していたし、人員が増やされることも聞いていた。
桂木班以外の人が、私の近くで警護をすることも。
(公安の警視、って言ってた・・・石神さんと同じ階級の人・・・)
それにしては、あまりにも違いすぎる。
「では早速、今から加賀がつきますので。私は、総理と打ち合わせをして参ります」
桂木さんがSPルームから出て行くと。
なんともいえない沈黙が流れた。
「どんなお嬢サマかと思っていたが、まだガキだな」
「なっ・・・!?」
「いいか、よく聞いておけ。俺は総理の娘だからと特別扱いはしない。さっきも言ったとおり、自分の仕事をするだけだ」
「わかっています」
「チヤホヤされてばかりの政治家ほどクソなものはねぇからな」
(なんだろう。確かに、公安の人は馴れ合わないって・・・石神さんも最初は冷たかったよね・・・でも)
石神さんのそれとは違う。
この人も、何か心に闇を抱えている。そんな気がした。
ところが、いざ警護が始まってみると。
それまでの姿が噓のように完璧だった。
周囲の状況判断、私との絶妙な距離感。
安全を確認したあとの、流れるような動作とエスコート。
元々はSPでした、と言われても違和感のない仕事ぶりは、いつしか私に安心感を与えてくれていた。
そうやって過ごした数日間。
加賀さんの表の顔と裏の顔にも慣れた頃、無事に事件は解決し、加賀さんは本来の仕事に戻ることに。
「お世話してねぇ、って言われるかもしれませんが、それでも。お世話になりました!」
「・・・」
「初対面の時は、正直すごく怖い人だと思いました。だけど、見えない何かと必死に戦っているような、加賀さんなりの正義が心の底にあるような気がして。そう思ったら、なんだか安心できました。」
「・・・お前、変わってるな。さすがはクソ眼鏡の女なだけある」
「石神さんをご存知なんですか?」
言ってから、失礼な質問をしてしまった、と思った。
「アイツとは、同期だ。政治家の娘っていうバカな女に引っかかったと思ってたが、どうやらそうでもないらしいな」
カチ、と煙草に火をつける音がした。
(皮肉っぽい言い方だけど、少しは認めてもらえてるってことなのかな。石神さんのことも、実は心配してたとか?)
きっとそうだ。
絶対に答えてくれないだろうけれど。
「加賀さんも、十分変わってますよ!第一印象で損をするタイプですね」
「テメェ、見かけによらずハッキリしてんな・・・第一印象は気弱なガキなくせに」
「はい。公安の怖い警視殿お二人に鍛えられましたから」
「ククッ。なるほどな」
最後はそんなやりとりで。
短い間だったけれど、強烈な印象を残して加賀さんは行ってしまった。
(いつか、石神さんと三人でお話できたらいいな・・・)
そんな暢気な日はこないだろうけれど、少しだけ期待してしまうのだった。
2018-04-01