ワンライのお部屋2(2017.4〜2018.3)

□ バレンタイン (大人の初恋はじめます/御園一弥)  2018.2.10
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慌しい一月を過ぎ、二月になって少しは落ち着くかと思いきや。
俺も、結衣も忙しい日々を送っていた。

それでも、なんとか取り付けた夕飯の約束。
会社に迎えに行き、「どこに行くか」と聞けば「コンテがいい」と。

確かに、美佳さんの飯は美味いし、ゆっくり落ち着ける場所だ。
・・・あいつらが、来ていなければ、の話だが。



そんな僅かな期待を裏切るかのように、いつもの顔ぶれが揃っていた。

「わぁ、みんなも来てたんだ!ヒロくんも?珍しいね!」

「結衣ちゃんより先に会社を出てしまって悪かったね。でも、一弥が一緒なら問題ないか」

「ほら、突っ立ってないで、こっち来て座れよ」


(はぁ・・・)

やっぱりこうなるのか、しかも今日は広樹さんまで。
口には出さずとも、俺のテンションが下がったのを察した結衣は。

「わ、私達はここに座るからお構いなく!」

と、とりあえず言ってみるものの。

結局、なんだかんだと誘導され、あいつらの近くに座ることになった。



食事をしながら、最初のうちは近況報告なんかで済んでいたのだが。
そのうち、酒も進み、だんだんと皆、饒舌になってくる。

そうすると、話題に上るのは、おのずと昔話で。
それは、必ずと言っていいほど、結衣の話になる。

(またか・・・)

日高が面白おかしく話すのを聞き流していたのだが。
ある話題で、皆が盛り上がり始めた。


森町兄
「結衣が昔作ってくれたチョコプリン、あれ美味かったよな」

日高
「え、マコ兄はプリンだったのか!俺なんて何かの顔のクッキーだったぜ」

北見
「ああ、俺もクッキーだったな。サッカーボールみたいな模様のやつ」

森町弟
「ウチにだけプリンだったんだ?」


・・・バレンタインの話か。こいつ、皆に作って渡してたのか。

北見
「御園は何もらったんだよ」

日高
「お前も変な形のクッキーか?」


「・・・俺は、もらっていない」


一瞬だけ、騒がしかったその空間が静まる。
しまった、という顔の二人。

「俺がもらうわけないだろう。あの頃は、顔も合わせたくない程だったんだからな。それにもし、持って来られても受け取らなかっただろうから」

森町兄
「ま、まあ人数分作るのもかなり大変だっただろうし・・・」

広樹さん
「俺も、もらってないかな。まだ此処に住んでいたはずだけど」

森町弟
「え、以外。俺らのは広樹さんのおこぼれかと思ってた」


そんなフォローもむなしく。
隣に座る結衣の顔は、みるみる困った表情になっていった。

(はぁ···まったく)

「俺は別に気にしていない。昔のことだろ」

そういうと、顔をあげ、少しだけ微笑んで。

それからは、その話題に触れることなく、食事を済ませた。



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あれ以来。
不自然なほど、結衣の口からはチョコはおろか、バレンタインの話題もないまま迎えた当日。

別に、もらおうがもらえなかろうが俺は気にしないが、でも。

(ここまで話題に触れないとは、気にしすぎじゃないのか?)

「おい、何か俺に言うことはないのか?」

「え?何か、って?」

(気にしてないのか?まあ、それならそれでいいが・・・)

そう思い、じっと顔をのぞき込んでみたが。
いつものような、元気はない。

(まったく、いつまで気にしているんだ)


「今日は少し遅くなる。けど、夕飯は家で食べたい」

「うん、わかった。私は早く帰れるから、ご飯用意しておくね」

「ああ、頼む」


そう言って、いつもより早めに家を出た。

今日は、急ぎの案件だけ済ませたら帰ろう。
少しでも長く、結衣との時間をすごせるように。

少しでも、結衣の笑顔が見られるように···




2018-02-24

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