ワンライのお部屋2(2017.4〜2018.3)
□ 節分 (大人の初恋はじめます/森町陸) 2018.2.3
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2月3日。俺の、誕生日。
今日は結衣に、夕食に招待されている。
「久しぶりに、陸ちゃんとお家ご飯にしたくて」
なんて。誕生日を祝ってくれるつもりなのバレバレなのに、言わないところが結衣らしい。
だから俺も。
「ん、わかった」
なんて。素っ気無く返事したりして。
約束の時間よりも、少しだけ遅く。そわそわしている彼女を思い浮かべながら。
結衣の家のチャイムを鳴らす。
「陸ちゃん!いらっしゃい〜。入って入って」
そんなに急かさなくても。
嬉しさで、引き寄せてしまいそうになった、その時。
「陸、来たのか。遅かったな」
え?
中から出てきたのは、兄貴で。
なんでいるの?
今日は、二人きりじゃなかったんだ?
っていうか、今まで結衣は兄貴と二人っきりだったって事?
・・・なんて。
小さな嫉妬が、胸にくすぶったけれど。
兄貴の、包み込むような笑顔に『まぁ、いいか』と思ってしまう。
結衣が用意してくれていたのは、手巻き寿司だった。
「何で手巻き?」
「ほら、今日は節分でもあるし。恵方巻き、とも思ったんだけど、せっかくのお祝いなのに、無言で食べるのもどうかな、って」
「ああ、なるほど」
「俺はそれでも良かったんだけどな」
「あ、マコ兄ならやってくれそう!」
そんな会話を皮切りに。
久しぶりの3人での食卓は、思っていたよりずっと、居心地が良かった。
乾杯の音頭を取ってくれた兄貴。
次々と、料理を運んでくれる結衣。
それは、全部俺のためであって・・・
込み上げてきた思いを誤魔化すかのように。
「結衣、いくらなんでも作りすぎじゃない?」
「ほら、やっぱりそうだろ」
「えへへ・・・だって、陸ちゃんのこと想いながら作ってたら、こんな量になっちゃって。
まだまだ沢山あるから、食べてくれる?」
・・・もう、いろいろと限界。
「ずるいなぁ・・・そんなこと言われたら、今すぐ抱きしめたくなっちゃうじゃん」
「こーら、陸。そういうのは、俺がいない時に言って・・・」
「あれ、兄貴に聞こえてた?」
そんな会話ができるようになったことに、安堵しながら。
兄貴と顔を見合わせ、ぷっと笑いあう。
「はい、お待たせー。あれ、2人で何の話?」
「・・・結衣の料理が、上達したな、って話」
「わ、陸ちゃんに褒めてもらえた!これから毎年、誕生日のたびに張り切って作るからね!」
「じゃあ俺は、節分ごとに愛情を返そうかな」
「?それって一緒じゃないの?」
「わかってないな。節分は今日だけじゃなく、年に4回あるって知ってる?」
「そうなの?」
「季節を分けるから、節分。だから、年に4回」
「それは勉強不足でした・・・」
「ま、年に4回程度じゃ足りないくらい、愛してるけどね」
「もう!」
そんな俺達を、微笑ましく見守っていた兄貴は。
「さてと。お腹もいっぱいになったし、俺はそろそろ帰るかな。
結衣、誘ってくれてありがとう。美味しかったし、一緒に祝えて楽しかったよ」
「兄貴、ありがとう。俺も・・・嬉しかった」
「マコ兄、もう帰っちゃうの?」
「週末の恋人達の時間をジャマするつもりはないよ」
「気遣い、ありがと」
「陸に、嫌われたくないからな」
そう言い残して、ドアを閉めて行った。
「結衣、兄貴のことも呼んでくれてありがとう。やっと、自分の中のわだかまりが解けた気がする」
「・・・良かった!だって、陸ちゃんの大事なお兄さんだし。それに、私にとっても」
「そうだね。でも、本当の義兄になる日がくるよ、もうすぐ」
「・・・!!」
また、新たな歳を迎え。
これからの1年。
結衣を幸せにしようと。
結衣の隣で、幸せになろうと。
両目をにじませた結衣をそっと抱き寄せながら、誓った。
2018-02-05