ワンライのお部屋2(2017.4〜2018.3)

□ 雪 (あの夜からキミに恋してた/槙雪久) 2018.1.27
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都心では珍しく、ふわふわと白いものが舞い降りたその日。

(どうしよう、全然いい案が浮かばない・・・!)

新しい案件を引き受けたものの、手元の企画書はいまだ白紙のまま。
桐谷さんにも『まだか』と催促されるくらい、今回は行き詰っていた。


デスクに向かっているものの、これといったアイデアも浮かばず。
そうして、だらだらと時間ばかり過ぎていき。
昼休み、ゆっくりランチをとる気にもなれず、屋上にやってきた。

相変わらず、ふわりふわりと舞う雪。

ぼんやりと空を仰ぐも、それは触れた途端に、儚く消えて。

(ここに来れば、何か浮かぶと思ったんだけどなぁ。そんなにうまくはいかないか)



そっとため息をこぼした時。

「珍しいですね。こんな天気なのに、先客がいたとは。」

「あ、槙先生・・・。先生こそ、お一人ですか?」

槙先生や橘さんが、時々ここで息抜きをしているのは知っていた。
でも今日は。
雪も舞っているし、肌寒いし、誰も来ないだろうと思っていたのに。

「シュンくんは出張で不在ですし、こんな日にここに来る人はいないと思っていたのですが。」

「あ、私も同じこと考えていました。誰もいないだろう、って。」

「おや残念。私に会いたいと思ってくれたのではなかったのですね。」

こういう時、槙先生は大人で、困る。
私は、こういう会話のあしらい方に慣れていない。

「す、すみませんっ。」

「謝らなくてもいいですよ。それより、ため息なんかついて。何か悩みでも?」


さすがはカウンセラー。
さりげなく、話を振ってくれる。


「はい・・・実は、次のCMのイメージが浮かばなくて。冬がコンセプトなんですけど。」

「それはまた、大雑把というか何というか・・・漠然としすぎていますね。」

「そうなんです。ここで、雪に触れたらイメージが掴めるかと思ったんですけど・・・」

「でも、掴めてないと?」

「はい・・・」


槙先生の声は、焦った私の気持ちを、全て吸い上げるかのような響きで。
適度な相槌と、時々くれる助言がまた、的を得ていて。
会話の中から、いくつかのヒントももらって。
話終えた頃には、形にしたい案が思い浮かんでいた。


「槙先生ありがとうございます。おかげで、少し方向性が見えてきた気がします。」

「私のおかげではなく、あなたの今までの成果でしょう。数多くの失敗の中にこそ、答えがあるのではないですか?」

「そうかも、しれません。それに気づかせてくださったので、お礼を・・・」

「お礼を言われるよりも、そうですね・・・今度、雪を見たら私を思い出してくれる、というのはどうでしょう。」

「え、何故ですか?」

「シュンくんが私を何て呼んでいるかご存知で?」

(あっ・・・そういえば、『ユキ』って・・・)

「私も雪を見たら、貴女のことを思い出すとしましょう。」

「私を、ですか?」

「ええ。だって貴女の肌は、ほら・・・こんなに雪のように白い。」

そう言って、首筋に指を這わされ。

「ひゃっ・・・!」

「ああ、失礼。これではセクハラになってしまいますね。」


いつもより寒いはずの屋上で。
槙先生に触れられた部分は、すごく、熱をもって。
突然の出来事なのに、それは・・・嫌ではなくて。

(なんで、こんな・・・)

何事も無かったかのように引っ込められた指を、少しさみしく思ってしまって。
その指を、名残惜しいと目で追ってしまったのは、きっとバレているのだろう。

そっと指先が、先生の口元に運ばれるのを。
寒さも忘れ、じっと見つめてしまうのだった。





2018-01-27

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