ワンライのお部屋2(2017.4〜2018.3)

□ 寝坊 (大人の初恋はじめます/御園一弥)  2018.1.13
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「一弥、遅いな…」

もう何度目になるかと呆れるくらい、部屋の時計とスマホを見比べて。帰って来ない恋人の名前を呟いてみる。

せっかくの週末。当然のように一緒にいられると思っていた休日の時間は、『仕事だ』の一言で敢え無く幻となった。

(仕事なのは仕方ないけど…一弥、明日のこと何とも思ってないのかな?)
明日は、一弥の誕生日だ。
今年は日曜日だし、ゆっくりお祝いしてあげたかったんだけどな…。でも、そんな事を口にすれば『必要ない』ってまた言われるのがオチだし…

せめて、日付けが変わった瞬間におめでとうと言いたくて、帰りを待っているのだけれど。
間もなくその当日になろうとしているのに、相変わらず連絡もない。

あと少し、あと少しと思うなか、時間は無情にも過ぎていき。私は、意識を手放した。


(う…ん…)
気がつくと、私はベッドの中にいた。
(あれ、どうして…そっか私、寝ちゃって…)

一弥は?
隣に手を伸ばしても、気配はない。
ベッドを抜け出し、リビングに向かうと、明かりがついていた。

「一弥!」
パソコンを叩く手を休め、こちらへ顔を向けた彼は、一瞬の微笑みのあと、いつものしかめっ面で私を見た。

「なんだ、起きてきたのか。もう遅い時間だから寝ろ」
「帰ったなら、起こしてくれたら良かったのに」
「あんなに気持ち良さそうに大口開けて寝ていて、起こせるか馬鹿」
相変わらずの憎まれ口だけれど。
疲れて帰ってきたのに、寝ている私をベッドまで運んでくれたんだよね…

「12時までは起きてたんだけどな…一弥、何時に帰ってきたの?」
「…12時5分だ」
「嘘。もっと遅かったんでしょう?」
「だったら何だ。何時だっていいだろう」
「そんな言い方しなくても。心配したのに」
「仕事でお前に心配される必要はない。眠いなら、待ってないでさっさと寝たら良かっただろう」
「またそんな言い方!心配だってするよ!それに今日は…特別な日だし!起きて待っていたかったの!!」
「…特別?」

ついつい売り言葉に買い言葉。こんなくだらないケンカをしたかった訳じゃない。大切な日に、大切な言葉を伝えたかっただけなのに。
なんだか自分が情けなくなり、思わず俯いて、何も言えなくなってしまう。

「特別…そうか…」
合点がいった、という顔で、一弥が近づいて来る。
「…俺の、誕生日か」
「うん…」
「悪かった…」
本当に覚えていなかったようで、バツの悪い顔でこちらを見る一弥。素直に謝られると、自分も子供っぽかったなぁと、途端に恥ずかしさがこみ上げる。

「お誕生日おめでとう、一弥。いちばん初めに言えなくてごめん」
「…」
「幸せな、あったかい気持ちをあげたかったのに、こんな言い合いをしちゃって。あーあ、いつまでもダメだな私」

「ダメなんかじゃない。…お前と言い合いをするのは、俺の楽しみのひとつでもあるからな。でも、お前の気が晴れないというのなら、気を紛らわしてやろうか」

えっ?と思った時には既に遅し。
背中には、ソファーの感触。目の前には、一弥の顔。

「え、ちょ、ちょっと!もう遅いから寝ろ、って言ってたのに!」
「明日は休みだ。早起きもしなくていいだろう?」
「そ、それはそうなんだけど…」
「…幸せな気持ちをくれるんだろ…」

想いのこもった低い声でそう言われると、反論する気は更々無くて。
「私にも…くれるんだよね?」
「…当たり前だ」
そうして2人、遅くまで熱を分け合って。


一弥の予言どおり、翌朝は揃って朝寝坊したのだった。



〜〜♪♪Happy Birthday Ichiya♪♪〜〜




2018-01-20

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