ワンライのお部屋2(2017.4〜2018.3)

□ 忘年会 (恋人は専属SP/石神秀樹・後藤誠二) 2017.12.30
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今年が終わるまで、あと数時間。
『御用納め』なんて言葉とは縁遠い我が課も、何とか仕事を終え、明日から休みになる。

そんな夜に、俺は後藤に誘われ今ここにいる。
部屋では、彼女が手料理とともに俺たちを迎えてくれた。

二人きりの空間に俺がいるのはどうかと一度は断ったのだが…
「結衣が、石神さんも是非にと。」
と、彼女の名前を出されては。
断ることも出来ず、こうして付いてきた、というわけだ。




「行かなくてよかったんですか、忘年会。」
「あんなもの、行っても無駄なだけだ。」

「でも、神谷警視正の直々のお誘いだったんでしょう?」
「だから何だ。俺はアンタとこうして鍋を囲んでいる方が幸せなんだ。」

「…その幸せな時間に、お邪魔してしまってすまないな。」
「…石神さんっ!」

「わかっている。…冗談だ。」

普段、無口だと思っていた部下は、恋人の前ではこんなにも自然体なのか…
俺に楯突き、やり場のない激しい感情をぶつけてきた面影は、なりを潜め、実に穏やかな表情で…

「すみません、石神さん。突然お誘いしちゃって、ご迷惑じゃありませんでしたか?」
「迷惑だなどと…とんでもない。こちらこそ、二人きりの年越しにお邪魔してしまいました。」

「いえ。石神さんのことはずっとお誘いしたいと思っていたんです。だから、今日は遠慮せず食べて行って下さい!」
「…ありがとう…では、いただきます。」

彼女の作った料理は、その人柄どおり優しい味がした。成程、こういう食事をしていれば、後藤もああなるのかもしれない。心も体も休まることの無い、あの特殊な仕事をする中で、気を許せる存在は。時間は。こうも人を変えるものかと、微笑ましく、そして羨ましくもあった。

(こんなことを思う俺こそ、変わったのだろうな…)

美味しい食事とお酒。そして愛しい存在。それらを十分に堪能した後藤は、連日の疲れもあったのか眠ってしまった。

「ご馳走様でした。そろそろ私もお暇します。」
「石神さん。いつもありがとうございます。」

「…え?」
「いつも私たちを見守ってくださって。後藤さんを見ていると、どんなに石神さんの事を信頼して尊敬しているのかわかります。後藤さんの支えになってくださって、本当に感謝しているんです。…なんて、私が言うのはおこがましいのですけど。」

ああ、本当にこの人は…

「まったく、貴女という人は。上司が部下の面倒をみるのは当たり前…と言いたいところですが。
私の方こそ、後藤にいつも助けられてばかりです。信頼できる部下、最近は特にそう思っています。後藤を、そんな風に変えてくれたのは貴女でしょう。」

鮮やかに。そして甘やかに。
ただただ恋人を思う気持ちだけを、その顔に映して…。

「本当に、お招きありがとう。3人だけの忘年会、ゆっくり貴女ともお話でき、いい時間を過ごせました。これで、安心して『年忘れ』できそうです。
では、よいお年を。」
「はいっ。石神さんも、よいお年を。」

二人の部屋を後にすると。雪がちらついていた。

(道理で、寒いはずだな)

そう思いながらも、心はひどく落ち着いていて、暖かで。
一年を振り返りながら、静かに帰路についた。




2017-12-30

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