ワンライのお部屋2(2017.4〜2018.3)
□ 年始 (大人の初恋はじめます/御園一弥) 2018.1.6
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「一弥、年末年始の予定は?お天気あまり良くないみたいだけど、初詣どうしよっか?」
「31日も、1日も仕事だ。」
「えっ、元日も?」
「…」
「そんな、お正月まで仕事なの?なんてブラックな職場…!」
「…社長は俺だが。」
ものすごく不機嫌な顔。
まあ、そうだよね。ゆっくり出来るはずのお正月も仕事なんて。
きっと他の社員さんを休ませても、自分だけは仕事するんだろうなぁ…
完璧主義の一弥らしいな、と小さくため息をこぼすとともに、そんな一弥を好きなんだからと思い直し。
「あーあ、私は孤独なお正月かぁ。」
「実家で、ゆっくりしてたらいいだろう。」
「一弥と一緒に、またおせちの準備とか年越し蕎麦の用意とかしたかったんだもん。」
「そんなもの、これからいくらでも出来るだろう。この先、ずっと。」
おそらく、無意識に言ってくれたであろうその言葉が、じんわりと胸に広がって。
「ずっと?」
「…いちいち言葉尻を捕えるな。」
「ふふっ。わかった。少し寂しいけど、今回は実家で過ごすね。一弥も大変だろうけど、お仕事頑張って。」
「ああ。二日なら会えるだろう。」
「じゃ、迎えに来てくれるの待ってる。」
「あまり食べ過ぎないようにしろよ。」
そんな約束をして。
私は、二日を楽しみに待つことにした。
*********
(あいつがいないと、こんなに静かだったか…)
TVから聞こえてくるのは、にぎやかな正月のバラエティ番組。見るとはなしに、静かさを埋めるように点けてはいるものの、正直、何がおかしくて笑っているのか。
(くだらない…)
結衣が一緒なら。
こんなくだらないTVさえも、愉快だと見てしまうんだろうな…。
大晦日は1人出社、昨日は自宅へ持ち帰った仕事をして、どうにか過ごしたが。
(そろそろ、限界だ)
立ち上がりコートを掴むと、歩きながら袖を通し部屋を出た。
急いで来たことを悟られないよう、エレベーターを待つ間、呼吸を整える。あいつの実家があるフロアボタンを押し、思いのほか心が浮き足立っている自分に気付く。
(まったく…)
「来る前に連絡してくれたら良かったのに!」
「そんな暇など無かった。それに、突然でもいいように、しっかり支度くらいしておけ。」
実家に迎えに行くと、普段着でくつろいだままの結衣が出てきた。
一弥はいつも突然だの、まだ準備が出来ていないだの文句を言う姿さえも眩しくて。
最後の家族水入らずの正月を、両親と過ごさせてやりたい。そう思って、大晦日も元日も実家に帰るよう仕向けたのだが。
お前は知らないだろうな。
朝から何度も時計を見ては、迎えの支度を整え、焦れていた俺の気持ちなど……
「お待たせ。じゃあ、遅ればせながら初詣に行く?」
「そのつもりだったろ。」
「やった!私、おみくじ引きたいんだ。一弥も一緒に引こうよ。」
「断る。」
「ええ?どうして…」
「仕事は順調。健康も問題ない。そして何より、ずっと欲しかったお前が手に入るんだ。今年は、大吉以外ないだろう?」
「そ、そういう事サラッと言わないでよ…」
「お前の困った顔を見るのが生きがいなんでな。」
「今年も一弥に振り回されそう…」
「じゃあ、お望みどおり振り回してやるか。」「もう!」
神社へ向かう道を、手を繋いで歩きながら。
今までで1番幸せな年始を迎えた自分。
隣を歩く結衣を見ながら。
この思いは、毎年更新されていくんだろう。
この先、ずっと……
2018-01-07