ワンライのお部屋2(2017.4〜2018.3)

□ 渇望 (恋人は公安刑事/東雲歩)  2017.11.18
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(ああもう、何処行ったんだよ)

オレは今、口ゲンカをして、部屋を飛び出したあの子を探し回っている。
夜になり、上着無しでは風が肌に沁みる、この時間。

あてもなくむやみに走り回るのも無駄だと思い、スマホを手にするけれど。

(そういえば、あの子何も持たずに出ていったよな・・・)

そろそろ本気で探さないといけないな、と思ったその時。


『今、先輩と寮近くの公園にいます』
アイツから届いた、たった一行のLIDE。

オレは、その一行にどうしようもない焦りを感じて。
目的の公園へと、全力で走り出した。


(あの公園まで行ってたなんて。こんな遅くに。何かあったらどうするんだ、まったく)

自分の行動や態度は棚に上げ、彼女への憎まれ口を心の中でたたきながら走る。

その一方で、
(宮山も、わざわざ連絡くれるなんて律儀じゃん。オレだったら、連絡なんてしないけどね)

などと、かすかな余裕すら感じていたのだけれど。



目的地の公園に足を踏み入れ、二人の姿を視界に捕らえたとき。
アイツの上着を、彼女が羽織っている姿を見たその瞬間。


息が、止まった。


少し前に、オレの前で腹を立てていた彼女の顔は、一変して穏やかで。
その彼女の話を、すべて受け止めるかのような宮山の、彼女だけに向けられた目線。

そのどちらの顔も、オレは見たことがなくて・・・

(なに、あれ・・・)

「友達」や「恋人」という言葉では括れない、特別な、相手。

(なんだっけ、確か、ソウルメイトとかなんとか・・・)

以前、人間関係についてのセミナーに潜入したときに、そんな講話があったのを思い出した。

多くを語らずとも、心が通じ合える間柄。
価値観が同じだったり、言葉に出さずとも行動を共にできる相手のこと。

(確か、そんな内容だった)

少し離れた場所から見る二人の様子は、まさにそんな言葉がぴったりだ。

二人を組ませた潜入捜査でも、それは証明されていて。
後藤さんや兵吾さん、室長だってあのコンビを認めている。


すぐに彼女の傍に駆け寄りたいのに。
それが、できない。

あの二人を傍で見ていて感じる疎外感。
今までに何度もあったけれど、今夜は、より一層思い知らされたような気がした。


しばらくそこに立ち止まったままだったオレは。


「自信がないんですか?だったら、遠慮なく奪わせてもらいますよ。」

「ごめん、宮山くん。やっぱり私、ケンカしても何でも、教官がいいんだ!」


その会話で、意識が戻された。


「だ、そうですよ。そんなところで聞いてないで、暖めてあげたらどうですか。俺じゃ、力不足みたいだし。」


まるでずっと前から、オレがここにいた事に気づいてたかのようなヤツの声。
驚きながらも、嬉しそうに赤く染めた頬で見つめる彼女の笑顔。


(ああ、この顔・・・)

おそらくこの顔は、オレ以外のヤツは見たことがないだろう。
我ながら単純だけど、それだけで、心が落ち着き、満たされていく。


「そうみたいだね。・・・わざわざ連絡ありがとう。助かった・・・」

そうだ。お前じゃ力不足なんだよ。
この子を大切にするのは。幸せにできるのは。

それを見せつけるかのように、彼女に掛けられた上着を取り去った。
そして、オレの上着で包みこんで。


「さ、帰るよ。」

「ハイ!宮山くん、ありがとう。またね。」

宮山に向けて振った彼女のその手を、自分の手のひらでギュッと掴んで。


(誰にも渡さない。オレだって、もうこの子なしではいられないんだから)

全てを手に入れたはずの彼女を、もう一度抱きしめ直して。

(まだまだ足りないんだ・・・こんなんじゃ、全然・・・)

この気持ちを全て、今夜はぶつけるから。

キミがいいと言うまで・・・
キミがいいと言っても、もっと、もっと・・・・・・




2017-11-19

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