TEXT(夢小説)

□ 新しい時間 (望さんBD)
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暗い……ここは、何処だ?

長い長い一本道。四方を囲まれたような、閉ざされた空間。

(トンネル、か?)

湿った、肌に刺すような空気の中、前へ進む。
寒い、と感じているのに、汗をかいている自分に気がつく。

(なんだ?この感じ……)

目的のものは、確かに前方にあるはずだ。
なのに、進んではいけないような、この感じ。

これ以上は、ダメだ。
そう思った瞬間。

暗闇の中で一瞬見えたものは、鮮やかな、赤い色。

「……リカ!!!」

俺の前方を遮ったその姿を確認した時から、俺の時間は、止まった。




仕事を辞めて帰ってきた俺は、小さな探偵事務所を開いた。

家族にも知らせずに。
自分の、無念を晴らすためだけに。
真実を知るためだけに。

幸い、スタッフには恵まれた。
本業を持ちながら、手を貸してくれる。ありがたい仲間たち。

こいつらには、あんな思いはさせない。
小さな事務所の、しがないボスでも、そのくらいの覚悟はあるつもりだ。



ひょんなことから、預かることになった女の子。
今回の事件で狙われているのに、泣き言もほとんど言わず、手伝いまでしてくれる。

本当は。

その胸の内に、いろいろ不安を抱えているだろう。
少しでも、取り除いてあげられたら。

自分の命と引き換えてでも、この事件を解決してみせる。
この子が、元の生活に戻れるようになるために。



*******



そんな風に思っていたはずの気持ちは。
事件の解決とともに、俺の心にも変化が訪れて。

「望さん、おはようございます!」

命を捨ててもいい、なんて考えていたのがウソのようだ。
今はただ、生きて、生きてこの子をこれからも守りたい。

「どうしたんですか?」

「んー、可愛い子が作ってくれるご飯は、どうしてこんなに美味しいのかなって。」

「ま、またそんなこと言って…」

「あー、その顔、信じてないね?ほんとだよ?」

さりげなく軽い口調で返すけれど、それは、重い重い、本音だ。

だって。

俺の止まっていた時間は、この子と思いが通い合ったあの日から、また動き始めたのだから。

納得がいかないような、ふくれっ面のその顔が愛しい。
今までの乾いた心は、急速に潤いを求めていて。

そんな感情を全部注ぎ込むかのように、彼女に、手を伸ばした。
この腕に、閉じ込めるために。
その存在を、確認するために……



2017-03-07

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