ワンライのお部屋1(2016.4〜2017.3)

□ 春の訪れ (教師たちの秘密の放課後/内海千春)  2017.3.25
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卒業式が終わった。

クラスメイトや、特進女子の面々と写真を撮り合ったり、別れを惜しんだ後。
俺は、真っ直ぐ帰宅する気分になれず、教室前の廊下に佇んでいた。

(この校舎ともお別れか・・・)

合併して、清春高校になってから、様々なことがあった。
理不尽な校則。およそ無謀な条件を突きつけられ、反発する友人達。

もちろん自分だって戸惑った。
だけど、こうして今日、全員でここを巣立つことができたのは。

(俺らの努力以上に・・・先生方のおかげだな)

そう思いながら、俺が真っ先に思い浮かべるのは星野先生の顔で。

(最後まで、想いは叶わなかったな)

俺がこうしていれるのは、間違いなく星野先生のおかげだ。

校則を破ってバイトをしていた時。
自分ではどうにもならない家庭の事情を抱えていた時。

いつでも気にかけてくれて。見守ってくれて。

いつしか、そんな先生に憧れ以上の感情を抱いて。

・・・そして、玉砕。

(かっこ悪・・・)



そんなことを思い出しながら、窓の外を見る。

枝ばかりだった木々たちが、うっすらと色づいてきて。
花を咲かせるのも、もうすぐだ。

この廊下の窓から見る景色は、少しは俺の心の癒しになっていたんだろう。

(なんか、やっぱ落ち着くな)



しばらくそうしていると。

「あれ、内海くん?」

「!!」

「どうしたの、もうみんな帰ったと思ってたよ。」

「星野先生・・・」

「思い出の学び舎、別れが惜しくなっちゃった?」

「ええ、まあ。あと、この景色も見納めかな、って。」

「そっか・・・そうだね。」



それから先生とふたり、少しの間、窓の外を見ていた。

最後なんだから、何か話をしようかとも思ったけれど。
何も言わず、こうしていられるのも、なんだかいいような気がして。

そんな心地よい時間を過ごして、そろそろ帰ろうとしたとき。



「まだ残っていたんですか。」

「神狩先生。お疲れさまです。見回りですか?」

「ええ。もう、残っているのはあなた達だけのようですよ。」


俺の尊敬する先生で、最大のライバル。
結局、超えることも、追いつくこともできなかったな。

まぁ、最初からわかってたけど。

けど、最後くらい、何か自分を印象付けたい。
そんな想いが溢れ出して。


「星野先生。俺の、最後の英語聞いてくれますか?」

「うん、いいよ。」

「If winter comes, can spring be far behind? ・・・俺の、素直な気持ちです。」

「内海くん・・・。あの時、応えてあげられなくて、本当にごめんなさい。」

そう言って、先生はせつなそうな表情をして。
でも、今だって応えてくれる気なんかないくせに。

「卒業おめでとう、内海くん。これからの活躍も、期待しています。
 内海くんは、私にとっても特別な生徒だったから。」

「・・・そう言ってもらえるなら、俺の勇気も無駄じゃなかったってことですね。
 先生、ありがとう。」

そして、神狩先生に向き合う。

「神狩先生。俺のこと、真剣に向き合ってくれてありがとうございました。
 先生に本音をぶつけられたのは、俺にとって最高の革命でした。
 星野先生と、お幸せに。」

「内海・・・。」



今とは違う未来を夢見たりもしたけれど。

この二人を見ていると、これで良かったんだと納得できる自分がいた。

憧れの人を、安心して任せられる相手。
それが、俺の信頼できる神狩先生で、良かった。

(やっぱり適わなかったな。でも『冬来たりなば春遠からじ・・・』俺の春だって、もうすぐ、そこに・・・)

そんなことを考えながら、俺の高校生活は、幕を閉じた。

たくさんの思い出と、憧れと、素晴らしい出逢い、そして、別れとともに。



2017-03-25

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