ワンライのお部屋1(2016.4〜2017.3)

□ (フリー)嫉妬 (恋人は専属SP/石神秀樹・一柳昴) 2017.3.18
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「だから、あの時アイツはやめとけって言っただろ。お前が関わっていいような人間じゃないって。」

「そう・・・でしたね。」

「こんな風になること、お前がそう思うことはわかってたんだよ。」

少しだけ、怒りを含んだ声。

「それでも諦めないで、アイツについてったのはお前だろ。もっと自信持て。あんな堅物についていけるのは、お前くらいのモンだろ。」

「・・・」

そう思いたい。あの人が心を預けてくれて、そしてあの人を支えていけるのは私だけなんだと。
いや、ずっとそう思ってきた。

なのに。
今、昴さんに向かってこんな話をしてしまっているのは、あの電話を聞いてからだ。

公安学校の教え子。
秀樹さんの補佐官をしている子。
秀樹さんの傍に、四六時中いられる存在。


「何度も言うけどな、いくら補佐官つったって、何でも知ってる訳じゃねーんだよ。
 守秘義務、って知ってるだろ。仕事内容は明かせないこともあるし。教官として、傍にいて面倒みてやってるだけなんだよ。」

わかってる。
わかってるのに。

『俺は、期待していない奴にはこんなことは言わない。
 やるからには、本気でかかれ。』

かかってきた電話に、そう答えていたのを聞いたとき。
相手が誰なのか、すぐに気付いてしまった。
そして秀樹さんが、その子をとても大切に思っていることを・・・


「ダメですね、私。こんなことで不安になっちゃって。
 本当なら、信頼できる人材を、優秀な公安刑事に育てている彼を応援しなきゃいけないのに。
 そんな部下が、一人でも彼の傍にいることを、喜ばしく思わなきゃいけないのに。」

ふう、と昴さんがため息をつく。

「確かに今までの石神じゃ、あんな風に部下を育てようなんて気持ちにならなかったかもな。協力なんて必要なきゃしない奴だし?
 でもそんなアイツを変えたのはお前だ。一人で背負い込むんじゃなくて、周りを見るようになったんだよ、アイツも。」

「でも、最近は卒業式が近いからか忙しいみたいで。夜ご飯も全然一緒じゃなくて。きっと今日も・・
 もし良かったら、昴さん食べていきませんか?」

「結衣の手料理か。それもいいな。」

毎日、食べてもらえないと思いながらも作ってしまっている食事。
多分、今夜も。

「私、自惚れてたんですよね。あの笑顔も優しさも、私だけのものだって。
 でも、補佐官さんと話している時の口調が・・・厳しいことを言っているのに、優しさが滲み出ていて。
 嫉妬・・・なんでしょうね。」

「嫉妬したっていいじゃねーか。 
 でも、アイツにしてみたら、自分が留守の間にオレが家に上がりこんでることの方が堪えると思うぜ?」

そう言ってイタズラっぽい目で、私を見る。

「確かに、学校でも以前より笑うことも増えたようだな。優しい顔を補佐官に見せることもある。
 だけど、お前にしか見せてない顔もあるだろ?
 ・・・まぁ、そろそろわかるんじゃねーか?」


昴さんがそう言って程なく、玄関が開く音がした。
そして、廊下を慌しく進んでくる音。

「結衣!」

「え、秀樹さん?どうして・・・」

息を切らした秀樹さんを見ながら、昴さんがニヤっと笑う。

「オレが後藤に連絡したんだよ。結衣が困っている、ってな。」

「・・・なるほど、だから後藤が・・・」

「お前も、たまには早く帰ってやれよ。こんな不安にさせやがって。
 まぁ、毎日加賀さんとの夕食が楽しみなら、それでもいいだろうけどな。」

「・・・冗談じゃない。」

「だろうな。2人して仏頂面つき合わせて食ってんだからな。だったら早く帰って、結衣と一緒に食べりゃいいだろ。」

「・・・」

「結衣、コイツのこんな焦った顔を見れるのはお前だけだろ。こんな感情むき出しの顔、学校や現場じゃ絶対ありえないからな。」

「一柳・・・もう帰れ。」

「わかってるよ。じゃあな、結衣。手料理は、今度ゆっくり食わせてもらうぜ。」

右手をスッと上げながら、昴さんは帰っていった。



「・・・すまなかった。」

「いえ、私のほうこそ。秀樹さんが忙しいのは理解しているはずなのに。こんなつまらない嫉妬で、お仕事の邪魔をしたりして・・・」

「いや、絶対に今日中、という仕事ではなかったんだ。
 それに・・・つまらない感情なんかじゃない。」

そう聞こえた直後、背中から両手が回された。

「さっき、一柳と2人きりのところを見たときの俺も、嫉妬でどうにかなりそうだった。
 自分は、毎日寂しい思いをさせているのにな・・・」

回された手に、力が込められる。
たったそれだけで、今までの不安なんて消えてしまうのだ。

「夕食が、一柳に食べられてしまわなくて、ほっとしている。」

小さなつぶやきの後、首筋に熱を感じた。

「あのっ、食事にしましょうか。温めなおしますね!」

「もう少し後で・・・今はまだ、顔を見ないでほしい。」

どんな顔をしているんだろう。
きっと、他の誰も見たことがない顔。
そんな顔をさせているのは、私で。

もう十分だ。
何を不安がっていたんだろう。
いつも傍にいなくても。 
こんなに愛情を注いでくれている。

「ありがとう、ございます。」

そっと彼の手の上に自分のを重ねて。
私の思いも伝わりますように、と強く握りかえした。



2017-03-19

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