ワンライのお部屋1(2016.4〜2017.3)
□ 午前2時の様子 (恋人は公安刑事/東雲歩) 2017.3.11
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「ハァ……」
目の前の彼女に、盛大なため息をついてみる。
別に、彼女が何かしたとか、オレが何かしたわけではない。
……というか、何もしていない。
何もしていないのだ。
(何でこうなるかな…)
*************
今日は久々のデートだった。
無事に卒業式も終わり、お互いバタバタと忙しかったが、ようやく予定を合わせることができて。
本当に、久しぶりのデート。
ウィンドウショッピングに出かけ、春物の洋服を選ぶ彼女と「似合う」「似合わない」なんて言い合って。
夕食のエビフライの材料や、朝食のパンケーキにかけるメイプルシロップなんかを買い込んで。
エビフライは……少しはレベルアップして、ブラックとブラウンが半々くらいまでになった。
彼女が卒業して。
もう師弟関係じゃなく、やっと『身も、心も』本当の恋人になれた。
そのせいなのか。
彼女の振る舞いも、自信がついてきたように思う。
対等な関係でいたいと思っているオレにとっては、嬉しい進歩だ。
夕食の片付けも終わり、少しだけ飲みながらテレビを見たり。
気がつくと、日付けが変わるまで話を楽しんでいた。
「教官、この二年間で…」
「誰が、教官?」
「あ、そうでした。あの、歩さん。」
「何?」
「この二年間で、印象深かったことって何ですか?」
「あぁ、国家の治安維持のためには俺たちの…」
「ス、ストップ!そういうのじゃなくて」
「じゃあ、何?」
「その、私とのことで…」
「あぁ、そっち。」
本当は最初から気がついてたけど。
こんな風に、彼女の反応をみるのもオレの楽しみのひとつなわけで。
「じゃ、敢えて言うけど。
自分勝手な行動するとこ。彼氏がいるくせに、後輩に言い寄られてうだうだしてた事。室長や兵吾さんに楯突く余計な勇気。それから…」
「なんだか、どれも良い印象じゃないんですけど…」
そう言って、頬をふくらませる。
「そう?どれもこれも、オレがその都度、自分のいろんな感情に気付かされた、印象深い出来事なんだけど。わかんない?
オレのこと、誰よりもよく知ってるのはキミでしょ。」
そこまで言って、お互いに気恥ずかしくなり……
そして…
「シャワー、あびてくる。」
「……はい。」
そんな会話をしたのが、30分前のこと。
オレも気持ちを落ち着かせて(前回のことがあるから)ゆっくり寝室のドアを開けると。
これだよ…
すうすう寝息をたてている傍らには、ビールの空き缶。
(オレがシャワーの間に、また飲んだな!)
普段の、日常態度には自信がついたんだろうけど、その、こっちの方は、やっぱりまだ…
(多分、緊張を紛らわすためだとは思うけど)
(こっちだって緊張してんだよ!!)
そんな気持ちをぶつけるように頬をつねってみたけれど。
一度、夢の世界にいってしまった彼女は起きる気配がない。
仕方ないな、と思いつつ布団を掛けなおし、自分も隣に入り込む。
じっと寝顔を見ながら。
(オレの…なんだよね……)
2年間のいろんな事が思い出されて。
ムカついた事も、振り回された事も、傷つけてしまった事も。
その度に、オレの心は乱されて。
自分がこんなに感情のふり幅が大きいなんて思わなかったな。
というか。
自分のどうでもいいような人生の中で、こんなに濃くて、充実した日々はあっただろうか。
そんなことを考えて。
あー、こんな時間にこんな気持ちで起きてなきゃならないなんて!
(ホント、どうしてくれるの)
相変わらず目覚める気配の無い彼女の顔に、堪らずそっとキスをして。
明日はどんな風にいじってやろうかな、なんてニヤニヤしている自分を、案外悪くないなと思っている。
そんな、午前2時。
「おやすみ」
そう言ってみたものの、オレが眠るのは・・・もう少し先になりそうだ。
2017-03-11