ワンライのお部屋1(2016.4〜2017.3)

□ 弱点 (恋人は専属SP/石神秀樹 ・ 桂木大地) 2017.1.21
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「黒澤は・・・不在か。」

捜査に出ている部下の机を見ながら、ため息をつく。
桂木警部に届ける書類があったのだが・・・。

(仕方がない、自分で届けるか)

官邸のSPルーム。以前は何とも思わなかったあの場所。

だけど、今は・・・。





ノックをしようと、ドアの前で立ち止まる。

賑やかな声・・・は、いつものことだが、今日は笑い声も聞こえてくる。

(あぁ、彼女が来ているのか)

嬉しいような、気が重いような、複雑な感情を抑えつつドアを開ける。


「失礼する。」

「げっ、スパイ石神!今日は黒澤じゃないのかよー。」

広末が、見なければよかったとでもいうような顔をする。

「お祭り課は相変わらず騒がしいな。」

「いやいや、スパイの嫌味も相変わらずだけどね〜。」


そんなお決まりのやり取りを見ていた桂木さんが、広末に向きあう。

「そら。あまり石神をからかうんじゃない。すまないな、忙しいところをわざわざ。」

「・・・いえ。遅くなり、こちらこそすみません。」

「いや、遅くなんかないぞ。これだけの資料をこんなに早く揃えてもらえるとは思ってなかった。
さすが石神だな。・・・ウチの課のやつらにも、見習ってほしいものだ。」

「え、班長、それってオレのことですか?」

「ははっ、自覚はあるようだな。」

「うっ、なるべく早くガンバリマスー。」

「期待してるぞ、そら。」



相変わらず、という言葉が合っているのかはわからないが。
仕事ができて、部下へのフォローもそつが無く、周りの信頼も厚い。


そして何よりも。公私ともに、彼女を守るポジションを勝ち取った男・・・。



「石神さん。お久しぶりです。」

ふいに彼女に声をかけられ、ハッとする。心地よく、俺の耳へと響いてくる声。

「こちらこそ。お元気でしたか?今日はご公務で?」

「はい。これから桂木さんとそらさんに付いてもらって、△△フォーラムでの挨拶に。
大きい会場なので、少し緊張しているんですが、頑張ってきます。」

「そうでしたか。桂木さんが一緒ならば安心ですね。」

「はい!」

「ちょ、スパイも智里ちゃんも!オレもいるんですけど〜」

「まあ、桂木さんはそらに比べるまでもないからな。」

それまで黙っていた一柳も、話に加わる。


「そ、そんな事ないですよ!そらさんのことも頼りにしています!」

焦ったように、広末に言葉をかける彼女と、そんな彼女を見守る、照れ顔の、彼。

「そ、そうだ、昴。オレだけでは回りきれないところも、そらがいてくれると・・」

「あー、そんな赤い顔して言われても説得力ないですから。」

「ほんとほんと。智里ちゃんは班長の弱点だからな〜〜」

「二人とも、オレをからかって・・・。全く、まいったな・・・。」




そんな微笑ましいはずのやり取りをみていると、何故かザワつく。

公務に出る三人を見送った後。SPルームには、俺と一柳だけになった。



ため息をつきながら、一柳が俺に向かって言った。

「お前、なんて目で2人のこと見てんだよ。」

「・・・何のことだ。」

「気づいてないのかよ・・・公安の鬼ともあろうお前がな。
仕事中にそんな弱った表情、見せんじゃねーぞ。」


一柳の言葉に即座に言い返せないのは、少しでも思い当たる節があるからだろう。
俺としたことが・・・一柳に、指摘されるとはな。

さっき見た、幸せそうな2人の姿を思い出して。

表に出してはいけないこの感情に、蓋をして。

俺は、SPルームを後にした。




2017-01-21

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