Stories
□約束だけじゃ、駄目だから。
2ページ/2ページ
先代社長が不在になってから、2年でほぼ、最低ランクのCCCランクからBBランクまで上がることは、年季を重視する魔法使いの世界では異例のこと。
元々先代が、数年余りでBBBランクまで……しかも仕事の選り好みさえしなければAランクだったことを考えれば、その手腕は親譲りだと言っても過言ではない。
血のつながりよりも、色濃く親の影響を受けているのだろうか。
ただし、天性の才能があるとはいえ騒動が無いとは言えない。
むしろ、才能がある故に引き込まれ、巻き込み……数珠繋ぎのように連鎖していく。
そんな様々な事情があってか、2代目〈アストラル〉社長はあらゆる意味で異様な存在として周囲に認知されているのだが……なんだかんだでその社長よりも社員の方が苦労しているものだ。
(そうであるからこそ、〈アストラル〉なんですけどねー……。社長は先代よりも、無茶をしたがる……そこが面白いのですが)
猫屋敷は、いつの間にかテーブル上にあったお茶を飲みながら、いつきの方を見て微笑む。
恐らくお茶は、ポルターガイストで黒羽が運んだのであろう。
……呪力を感じないということは、既に社内にはいないらしい。
「……まぁ、慣れましたよ。本当に、色々と」
「はい……」
「ですが、社長」
「何でしょう……?」
「”勝手に契約はしない。契約をする前には、必ず誰かに相談をしてから“という約束はどうしました?明らかに相談していませんよね。……この契約内容じゃ、穂波さんは勿論、オルトヴィーン君が黙ってはいないでしょう?」
そう、ここで話は戻る。
「してない、です……」
「……本当に、社長はこういうお人だって分かってはいたのですが。こうも約束事を反故されると……」
「ご、ごめんなさい!……アディリシアさんの頼みだったので、僕に出来ることならしてあげたくて!」
「いや、〈ゲーティア〉に貸しを作ることは構いませんよ?社長がお人好しなのも、今に始まったことでは無いですし」
「ぐうの音も出ません……」
「どうやら約束だけでは、わかってくれないようですね……社長は」
皮肉混じりに呟く、猫屋敷。
いつきの方は、かなりのダメージを負っているようだが、心配かけさせた分ということでフォローはしない。
「お人好し過ぎる貴方も、また魅力的ですが。しかし……そこまで、約束事を守って頂けないのであれば……いっそのこと私が社長の傍に居て、管理致しましょうか?」
”死ぬまで“
そんな冗談みたいなことを真面目な口調で言う。
笑ってはいるが、瞳に灯る光は真剣そのもので。
思わず、それに耐えきれず目を逸らすいつき。
顔に、じわじわと熱が集まっていくのが分かった。
「ね、猫屋敷さん……何だか、プロポーズみたいですよ?質の悪い冗談は、止めてください」
「冗談でこんなことを、私が言うとお思いで?」
「……思わないですけど。いや、ちょっとは思いましたけど。え、それって……?」
「結婚しませんか、って言ってるつもりです。……そうすれば、いつでも貴方を把握できますし。とはいえ、同性婚は日本は認めてないので形だけのものになりますが」
「あ、あの……」
「あぁ……心配しないでください。私は、貴方のことを愛していますから」
さらりと好意を告げられる。
あまりにもあっさり述べられた言葉が、非現実的すぎて頭の回路が上手く情報を処理してくれない。
それこそ、魔法よりも非現実的だ。
つかの間の静寂。
「……冗談ですよね?」
「さぁ。……どうでしょう?」
更に笑みを強くする猫屋敷。
冗談であっても、心臓に悪い。
そうでなくても、余計に悪い。
(……これ、本当にプロポーズを申し込まれているんですかね?えっ、冗談?でも、目は本気そうだし……!もう……本当でも嘘でも、心臓に悪いですよ猫屋敷さん……!)
(さて、つい本音が漏れた上にプロポーズしちゃいましたが……社長はどうお思いになるでしょうか?もう少し分かりやすくアプローチすべきだったのですかねぇ。……まぁ、困っている社長が愛らしいので、良しとしましょう)
方や落ち着きなく、顔を赤に染め。
方や笑みを崩すことなく、愛し気に見つめ。
「……ちなみに、社長。お返事は?」
「か、考えさせてください……」
その後。
猫屋敷からいつきへの、熱烈なアプローチがあったことは言うまでもない。