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□約束だけじゃ、駄目だから。
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突然ですが。

皆さんは、約束事を守りますか?



……まぁ、余程のことがなければ守りますよね。

僕も、普段は守っていると思います。



……ただ言いたいのは、例外とはどこにでもあるものだということ。





(……どうしよう。これは、ちょっと……言い訳出来ない)





それは、約束事を破ってまでも貫きたい思いかもしれない。

もしかしたら、自分の意思を示すための反抗手段という可能性もある。

ただ何となく破ってみた……という場合も、無きもあらずだろう。



どれも、生きていくうえで1度は体験することである。

ただし、それが許されているのは成長するために必要であることを、周りが認知しているからだ。



そうでなければ、約束事は守らなければならないもの……なんて、“常識”はこの世に存在しない。



だから……目の前の恋人が、ちょっと逃げ出したいくらいに怒っているのも仕方ないといえる。





「ちょっと、こちらに座ってくださいな。……それで、社長?」

「……はい」

「これはいったい……どういうことなのか、説明して頂けますよね?」

「……説明させて、いただきます」





彼の手には、1枚の契約書。



その契約書には、〈アストラル〉にとって切っても切りきれない縁のある〈ゲーティア〉の名が刻まれていた。





「軽く目を通しましたが……魔術決闘〈フェーデ〉の審判を社長が行う、という内容ですよね?」

「……大まかには、そうです」

「申請手続きの受理は、どなたが行いました?」

「クロエさんです。……〈銀の騎士団〉の赤髪の女性です。本当なら、影崎さんの予定だったんですが、不在だったので……ならば、受理経験のあるクロエさんでも良いだろうと、ジェラールさんが……」

「……魔法使いを罰する魔法使いだった時に、もっと呪術でも掛けておくべきでしたね」

「え?」

「いえ、何でもありませんよ。……で、社長は“何故”こんな例のあまりない契約に応じたのです?」





縁のあるとはいえ、他社の魔術決闘〈フェーデ〉に……。



そう続ける、猫屋敷。



事実、他社の揉め事に他社が口を出すことは少ない。

冷酷にも見えるが、自分の会社の問題程度を解決出来なければ、所詮その程度の会社だという訳だ。

反転すれば、対処出来てこそようやくそれなりの実力があるとも言えるだろう。



それだからこそオズワルドの一件があるとはいえ、やはり異例は異例である。





「えーと……秘密、です」

「……秘密、ですか」

「はい。社長同士で、決めたことですから。……言えないです」





笑みを浮かべながらも、はっきりとした意思を持って告げるいつき。



あまりにもあっさりとした隠し事に、思わず怒りさえも沈静化してしまう。



この状態から、聞き出すことはほぼ不可能に近い。

そんなことを思いながら、猫屋敷は苦笑いを顔に表した。





(まぁ……社長が微笑みながら言えるのであれば、そこまで危険という訳では無さそうですね。〈ゲーティア〉ということはアディリシア様もいらっしゃいますし……)





後に分かったことだが、この魔術決闘〈フェーデ〉とは名ばかりで、実質は入社試験兼各社員の実力を図るためのものとう意味合いが強い。

それを知る者はほぼいない為、また外部に漏らすことでもない為、魔術決闘〈フェーデ〉として扱っているらしかった。



だが、それとして扱うのであれば審判をつけなければならない。

そこで白羽の矢が立ったのが、〈ゲーティア〉と深い縁もあり、なおかつ“魔法使いらしくない”いつきだったという内訳だった。

“らしくない”からこそ、厳正なジャッチメントが出来ると踏んだのだろう。



それを分かっていたからこそ〈協会〉側は、正式な受理者を使わなかったのだ。





「……社長がそこまで仰るのであれば、社員である私はこれ以上聞けませんね」

「ご、ごめんなさい……」





先程とは裏腹に、申し訳なさそうに謝るいつき。





「良いんですよ。社長はこういうお人だってことは、よーく存じ上げていますから」

「……いつも、振り回しちゃってすみません。気づいたら、こんな感じになってて……」

「いえいえ、もう慣れました。……流石に週1レベルで騒動があれば、嫌でも」





最後の言葉に、力が入っていたのは仕方ないだろう。
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