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□あまいあまい夢をみた。
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夢をみた。

それはそれは……しあわせな夢を。




















「飛雄ちゃんが好きだよ」





そう言って笑う彼の笑顔は、なんだか不思議と歪んで見える。

あんなにも、きらきらと輝いてみえたあの笑顔なのに。





(あぁ……これは、夢だ。)





曖昧にぼやけたこの風景は、見覚えのありすぎる更衣室だけれども、彼は白いブレザーが特徴的な高校の制服ではない。

俺自身も、彼とは頭1つ分は身長差があり、そして苦々しい記憶のある青いユニフォームを着ていた。

馴染みはじめた、黒のユニフォームではなく。



つまり、中学時代の夢……なんだろうか。





「飛雄ちゃんも、俺のこと好きだよね?」





自信に満ち溢れたその言い方も、ほんのわずかに滲んだ熱を持つ瞳も、同じだった。



なぜだろう。

夢の中なのに、胸が痛い。





「……はい。好きですよ」





そう答える唇は、微かに震えてしまう。



でも。

どうせ、夢ならば。

かつて言いたくなかった……言えなかった想いを、素直に伝える。



伝えた瞬間、及川さんはまるで現実の彼と変わらない笑顔を見せた。

ごく自然にふわりと俺の手を握り、抱きしめる。

しばらく抱きしめられたままでいると、及川さんはゆっくりと呟きはじめた。





「ほら、やっぱり好きだった。……俺も好きだよ。こんなにも憎たらしい後輩なのにね」

「それは、こっちもだって同じです!嫌な先輩なのに……どうして、好きなっちゃったんですかね……?」

「ほんと、そういうとこもムカつくなー……。でも、好きなんだよね。なんか、負けた気分。やっぱりお前、嫌いだわ」

「……嘘つき、です」





そう言って拗ねたフリをする。



そうすると彼は、ちょっとだけ慌てたような顔をしてキスをしてくれた。

夢の中なのにも関わらず、リアルな熱さと感触。

舌の入り込む瞬間、少しだけ唇を噛まれる甘い痺れも、彼の愛用している制汗剤の仄かな柑橘系の香りも、驚くほど現実そのものみたいで。





(……なんで、ここまで同じなんだよ)





触れ合っている唇から、吐息が涙と共に零れる。

しあわせ、なのに。





「……っ。どうしたの、もしかして苦しかった……とか?」

「……はい。ちょっと」

「飛雄ちゃん、経験少ないもんね」

「うるさいです」





からかう彼に、嘘をついた。

はたしてどちらが、嘘つきなのだろう。



涙を誤魔化すように、自嘲気味に笑う。

きっと彼の目には、息が出来なかったから泣いたように見えるだろう。



それでいい。



……せっかくの夢なんだ。

苦しい想いなんて忘れて、彼との甘い“思い出”に溺れてしまえばいい。




「……及川さん」

「ん?」




上手く笑えてないことはわかっていたけれど、自分なりに精一杯の笑顔を作る。

さっきとは違う、自嘲気味でもない笑顔を。




「好きです。ずっと、それは変わりません」




夢の中で、唯一の真実。



この気持ちだけは、“思い出”なんかになってはくれなかったけれど、夢の中とはいえ、こうして言えるのならば、それはそれで良いような気がする。

少なくとも……こうして、彼に触れ合って、自分の口で伝えることが出来たのだから。




「……そんなこと、前から知ってたから。っていうか、変わったら許さないよ。飛雄ちゃんは、俺だけ見てればいーの!」




照れ隠しだろうか、早口で言う。

そんな彼を見たのは、久しぶりな気分だ。





「はい。……及川さんのこと、見てます」

「ば、馬鹿。急に素直にならないでよ。なんだか……もう、調子狂うなぁ」

「……だって、及川さんが見てろって言ったんじゃないですか」

「そうだけどさ!」




まったく……とぼやきながら、再び重なる唇。



仕返しのつもりか、いつもよりも深く絡まる舌に脳の奥が溶けていくような錯覚がする。

激しいキスなのに、水音はほとんどしない。

息をつくタイミングに合わせて、喉の奥へ滑り込まされているようだが、そこまで考えられる余裕はなかった。




「ん……ぁ。おいか、わさん……」

「……何?」

「俺のこと……好き、ですか?」





夢だから、聞けること。

現実じゃ、彼は間違いなく“嫌い”と言うだろう。




「……ほんと、馬鹿。さっきから言ってるじゃん。好きだよ。……お前が、俺のことを好きになるよりも前から、好き。……まだ、信用できない?」

「できなくない、です」




お互いに照れた顔で、笑い合う。



それはそれは……しあわせ、だった。

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