読み物

□吹雪の夜
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 コンコン。
 玄関口からのんびりとしたノックの音が聴こえた。
 この吹雪の夜に来客とは珍しいものだ。
 私は扉についている覗き窓を覗いた。
 しかし、そこには誰もいない。
 私は吹雪のしわざだと思い、扉から離れた。
 相変わらず音は聴こえる。
 窓の外をぼうっと眺めていると、吹雪の中に黒い人影が映った。
 あれは一体誰だ?まさか泥棒じゃないのか。
 もしかしたらさっきのノックもあいつの仕業だろうか。
 泥棒なら少し懲らしめてやろうと思い、窓を開き大きな声で言った。
「せめてもっと穏やかな夜に来ればいいものを、こんな吹雪の夜にやってくるとは」
「そうですね、でも外が騒がしい方が盗みもしやすいってもんですよ」
 泥棒が驚き逃げていくと思いきや、こんな返事がくるとは思いもしなかった。
「閉めたってもう遅いですよ」
 後ろを振り向くと、真っ黒なローブを着た背の高い男が家の中に入ってきていた。
「な、なんだお前は、出て行ってくれ」
「それは聞けませんね、なにせ盗みに来てるんですから」
 物を盗られることなど大した問題ではない、私は今この気味悪い男をさっさと家から出したい気分だった。
「物を盗りたいなら盗っていけばいい、終わったらさっさと出て行ってくれ。あと私には指一本触らないでくれよ」
 背の高い男は笑いながら言った。
「それでは意味がないんですよ。私が欲しいのはその命なんですから」
 それを聞き、私の血の気が引いていった。
「そんな、どうして、何故私を殺すと言うのです」
「何故と聞かれましても……」
「金庫の場所も教えます、なんなら私が開けてさしあげます、なので命だけは……」
「そうと言われましても、あなたの死は既に決まっていることなのです」
 男はそう淡々と話していった。
「お、お願いします、勘弁してください、私が何をしたっていうんです」
「知りたいなら教えて差し上げましょう。あなたは風邪を引いて熱を出し、暑いからとこの寒い冬に暖房を切って眠っていました。あなたは凍死したんです。だから私が迎えに参りました。とは言っても私は本来天国へ行くはずの魂を盗んでいく者ですがね」
「そ、そんな……」
 私は言葉を失った。
「こうやって忘れられた魂を回収できるのは大変喜ばしいことです。この冬の天使たちは忙しそうにしてますが、あなたのような死に方をするのは彼らも想定外だったのでしょう……」

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