時を越えて

□5話
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ガルダのおかげで私は助かった。
後になってから私はガルダに感謝し、同時になぜ戦わせてくれなかったのかと怒ったことを謝罪すると、『気にしないでください』と笑うだけだった。
父も母もあの邸と共に消えたことは明白だったため、私は訊ねなかったし彼女も話さなかった。

そしてガルダは幼い私を連れて遠い土地に引っ越した。
最初見た時は小屋かと思ったが、住めば都というべきか、二人で暮らすには十分だった。
そんなガルダも5年前に老衰で亡くなり、私は一人となった。


それら全て、今の今まで忘れていた。
大事なことのはずが、悲しみのあまり忘れていたようだ。
脳が『忘れさせないと精神に異常をきたす』と思うほどまで幼い子どもにはショックな出来事だったし、覚えていなくても無理もなかった。

しかしそれもこいつの顔を見るまでは。

「それにしてもでかくなったな、お前。
お前の親父や母親を殺した時はまだほんの子どもだったのに」
ぐっと拳を握った。
こんなにも怒りを感じたのは生まれて二度目だ。
今すぐ殺してやりたいという気持ちを押し殺す。
冷静さを欠けば命を失いかねないし、何より感情で挑んで勝てる相手でもなかった。
「貴方は、私にとどめを刺すの?」
怒りに震える声で、しかし出来る限り怒りを抑え、人造人間に訊ねる。
だが返ってきた答えは予想外だった。
「いや、今日の目的はお前じゃない。
お前も知ってる通り、トランクスを探してるんだ。
最近無抵抗の人間を殺してても楽しくなくてな。
たまにはあいつをかまってやろうってわけさ」
勝手にベッドに腰をかけると、そう言ってきた。
私を殺すつもりはないらしい。
でもすんなりと帰ってもらうのは難しそうだ。
「ここにはトランクスはいない。
だから帰ってほしい」
ジロっと冷たい目が私に向けられる。
目を合わせたくない。
怖いとかではなく、カッとなって自分で歯止めがきかなくなってしまいそうだった。
「へえ。だがここで待っていたらそのうち来るんだろう?」17号が言った。
「いつになるかは分からない」私はそれに答えた。
ここで待たれてもつらい。
なにより精神的に持たないだろう。
殺されないだけマシかもしれないが。
「分かった。今日は帰るとするよ」
そう言って立ち上がり、帰るのかと思われた。
だが、いつの間にか左頬に激痛が走っていた。
何をされたのか分からず手を当てると、生温い真っ赤な血が、べっとりと手についてきた。
眩暈がする。
「それは俺にやられたと伝えろ。
あいつの怒った顔を見るのが楽しみだ」
どんどん17号の声が遠のき、私の視界は真っ暗になった。
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